「会社の規模が大きくなってきたこの頃、大企業病的"ゆるみ"を感じています」とS社の40代若手社長のD氏。3年前にネット通販からスタートし、みるみる20店150人ほどの小売チェーンストアを作り上げました。彼の言う"ゆるみ"とは、20~30代の若いスタッフ中心の活力あふれる会社であるのに、このところどうもルーズさが目立つのだと。
その典型例がスタッフの遅刻の問題。特定の店舗でスタッフの遅刻が急増しているというのです。総務部長に現場ヒアリングをしてもらったところ、なんとその店の複数のスタッフから「店長が遅刻をしているのだから、遅刻が増えて当たり前」「店長は行き先不明の外出も多く、スタッフは皆、店長が仕事中に遊んでいると思っている」という意外な答えが返ってきました。その店長C君は創業直後から勤務する30歳そこそこの幹部社員で、タイムカードはなく、あくまで自己申告の勤怠管理のため遅刻や不明外出の事実は初耳でした。
「大幅減俸」言い渡された店長は不満顔
社長はすぐにC店長を呼んで厳しい注意をするとともに、大幅減俸を言い渡しました。そして社長室から出てくると、社内にちょうど居合わせた私を見つけ、彼に管理者の心得を聞かせてやってくれと指示。私は店長と少し話をすることにしました。
C君は大変不満そうでした。私が話をしたのは、管理者は自分が意識する以上に部下がその行動を見ているので、部下の手本となる行動を心掛ける必要があることなど、おきまりの心得でしたが、彼は終始無言でうつむいたまま。「何かある?」とたずねるとおもむろに顔を上げて、「社長にもその話を聞かせて欲しいです」と不満そうに言って席を立ちました。「社長自身だって同じじゃないですか」とでも言いたいように私には聞こえました。
そこで社内実態を確認してみると、分かったことは、始業は午前9時半ですが、社長の出勤は10時半。社長は外出時に行き先を告げず帰社時間も不明。これは他の管理者も同様。社内の打ち合わせや会議は、時間に始まることはほとんどなく、たいてい10~30分遅れ。社長が出席する会議に至っては、社長自身の帰社遅れで開始が1時間近くもずれこみました。こうして見ると、なるほどC君の言うように、社内の"ゆるみ"の大元は社長自身の行動と無関係ではないと思えたのです。
「僕自身が規模に見合わない子供社長ということか…」
もちろんD社長にこれらを尋ねてみれば、出勤が遅いのは連日夜遅くまで取引先を接待しているから、行き先を告げずに出るのは社員には関係のないトップ営業活動だから、会議の時間に遅れたのはその折衝が長引いたから、とそれぞれに正当な理由はありました。
しかし「子は親の鏡」という格言もあります。20代が中心でほとんどの社員が40歳未満というS社のような"若い"急成長会社の場合、言ってみれば社長は兄貴であり親であるような存在です。30歳前後でそれまで人の上に立った経験もなく突然管理者となった社員は、社長を手本として日々業務姿勢を形づくっていると言っても過言ではないのです。
社長が時間にルーズなら未熟な管理者はそれでいいのだと思って行動し、社長が時間や行動開示にルーズなら、彼らもまたそれが管理者のあたり前と都合よく解釈して行動する。さらには管理者がそのような行動をするのなら、その下に連なるスタッフは上司がやっているんだから自分たちもいいだろう、と「楽」に流れる負の連鎖は組織全体に容易に蔓延するものなのです。若い組織や急成長組織であればあるほど、子供に親が手本を見せてしつけをするかのように、社長は自己の行動に気を遣う必要があるのです。
はじめは社長の行動に関する質問などに不満顔だったD社長でしたが、話を聞き進むうちに徐々に表情は変わりました。「結局のところ、僕自身が社長としてまだまだ今の規模に見合わない子供社長ということか…」。社長はC店長の処分をひとまず撤回し、自身の日常行動の見直しからはじめることにしました。(大関暁夫)