「僕自身が規模に見合わない子供社長ということか…」
もちろんD社長にこれらを尋ねてみれば、出勤が遅いのは連日夜遅くまで取引先を接待しているから、行き先を告げずに出るのは社員には関係のないトップ営業活動だから、会議の時間に遅れたのはその折衝が長引いたから、とそれぞれに正当な理由はありました。
しかし「子は親の鏡」という格言もあります。20代が中心でほとんどの社員が40歳未満というS社のような"若い"急成長会社の場合、言ってみれば社長は兄貴であり親であるような存在です。30歳前後でそれまで人の上に立った経験もなく突然管理者となった社員は、社長を手本として日々業務姿勢を形づくっていると言っても過言ではないのです。
社長が時間にルーズなら未熟な管理者はそれでいいのだと思って行動し、社長が時間や行動開示にルーズなら、彼らもまたそれが管理者のあたり前と都合よく解釈して行動する。さらには管理者がそのような行動をするのなら、その下に連なるスタッフは上司がやっているんだから自分たちもいいだろう、と「楽」に流れる負の連鎖は組織全体に容易に蔓延するものなのです。若い組織や急成長組織であればあるほど、子供に親が手本を見せてしつけをするかのように、社長は自己の行動に気を遣う必要があるのです。
はじめは社長の行動に関する質問などに不満顔だったD社長でしたが、話を聞き進むうちに徐々に表情は変わりました。「結局のところ、僕自身が社長としてまだまだ今の規模に見合わない子供社長ということか…」。社長はC店長の処分をひとまず撤回し、自身の日常行動の見直しからはじめることにしました。(大関暁夫)