インフルエンザの予防接種を断る社員 業務命令違反で処分できるか?

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   インフルエンザ感染による学級閉鎖のニュースが報じられ始めた。東京や北海道など各地で「今季初」が伝えられている。

   一方、会社となると簡単に「閉鎖」というワケにはいかない。特に小規模な会社では、「事務所閉鎖」などに発展すれば死活問題ともなりかねない。例年、予防接種を社員全員が受けていたある会社で、今年は「受けない」という社員が出てきて経営者が頭を悩ませている。

昔からいる社員は、全員当たり前のように受けている

   デザイン会社の経営者です。社員数は10人くらいです。

   毎年11月頃になると社員にインフルエンザの予防接種をさせています。

   というのは人数がギリギリでやっているため、誰かがインフルエンザにかかって長期欠勤などになってしまったらカバーするのが大変だからです。

   それに他の社員に感染したら困ります。

   昔からいる社員は、この時期になると全員当たり前のように予防接種を受けています。

   しかし今年から入社したA君は予防接種になかなか行きません。

   昨日A君に

「A君、インフルエンザの予防接種は受けたのか?うちは11月に全員受けることになっているんだよ」

と言ったところ、A君は

「私はインフルエンザになったことがないので大丈夫です。それに行く暇がありません」

と言って拒否をします。休まれたら困るということ、他の人にうつしたら困るということを言い続けましたが、行く気はないようです。

   あとで他の社員から聞いたのですが、A君は注射が嫌いだそうでそれで予防接種を受けないのだそうです。

   費用も会社が出しているし、本人に不利益はないことだと思うのですが……

   何度言っても言うことを聞かないので、業務命令違反として何らかの処分を科したいと思っているのですが、どのような処分を科すことができるのでしょうか?

社会保険労務士 野崎大輔の視点
懲戒処分は権利の濫用となる可能性が高い

   今回のケースで懲戒処分を下すのは難しいでしょう。インフルエンザの予防接種を受ける法律上の義務が無いのにもかかわらず、受けなかったから罰するというのは権利の濫用となる可能性があるからです。

   懲戒処分とは別の論点で予防接種を強制できるかを確認しました。過去に争った判例が見当たらなかったため、数カ所の労働基準監督署に確認してみたところ、意見が分かれていました。強制できるという視点の監督署の話では、「業務命令でインフルエンザの予防接種を命じて何が悪いんですか?これは当たり前のことですよね。法的にも根拠がないことですし、会社が命令できないということでもありません」とのことでした。特に法律で定めがないということは、逆に言うと強制もできるということです。

   ただし、争いになった場合は会社としてインフルエンザの予防接種を義務付けるにあたっての根拠を明示する必要がありますので、この辺りは押さえておく必要があるかと思います。整理をすると、業務上の必要性があれば、インフルエンザの予防接種を業務命令として指示しても良いと私は考えます。ただし、アレルギーのある人には配慮をする必要がありますし、受けなかったからといって懲戒処分を下すのはやめた方が良いと思います。

臨床心理士 尾崎健一の視点
粘り強く説得の時間をかけることも必要

   個人の判断の尊重という人権の観点から、処分するのは難しいでしょう。粘り強く説得の時間を持ちましょう。会社が一個人の予防接種を受けさせるために手間と時間をかけすぎることになるかもしれませんが、もし罹患すれば一人欠員が出るだけでなく、周囲に感染る危険が高いのでそれだけする意味のあることです。熱意が伝わって、予防接種に行ってくれたり、拒否する理由を言ってくれるかも知れません。

   本人も処分があるなしにかかわらず、拒否する理由が単に「注射が嫌い」では社会性がないと言わざるを得ません。周囲への配慮という意味でも、積極的に従いたいものです。

   なお、注射により「過去に体調が悪くなったことがある」や「アレルギー反応がある」などの理由であれば、医師に相談することが必要です。

   もし、会社として本当に全員接種を目指すなら、費用負担だけでなく全員で勤務時間内に予防接種に行く日時を決めて行うなどの能動的な方法を検討しても良いかもしれません。

インフルエンザ予防接種拒否で処分された。納得できますか?
仕方ない
納得できない
労基署に相談する
処分内容による
その他
尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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