異口同音に「社長が決めたことだと思ったので」
社長は烈火のごとく怒りました。
「店がウソついているかいないかは、会社が決めることじゃない。お客様が決めること。『魚沼産コシヒカリ使用』が実は半分だけだったとお客さまが知ったらどう思う。きっとだまされたと思うだろう。そしてその噂が広まってみろ、あそこは肉も国産牛使用と言っているけど半分は輸入肉をだまして使うブラック・ステーキ屋だ、と言われることにもなりかねないんだぞ。すぐに米を100%魚沼産に戻せ!」
こうして事件自体は 事なきを得たのですが、社長を悩ませた問題は魚沼産コシヒカリを半分に落としたという事実よりも、そのことをどの店も半年間も放置していたことにありました。各店の店長や料理長が長期間にわたって、なぜ本社に何のクレームも言ってこなかったのかということに危機感を覚えたのです。すぐに全店長を本社に呼んでその真意を質したのですが、答えはあまりにも意外なものでした。
皆が異口同音に口にしたのは、「社長が決めたことだと思ったので」。正しいことと間違ったことを見誤ってしまうほど、いつの間に社内はイエスマンばかりになってしまったのか。社長のショックは事件の発覚以上に大きなものになってしまいました。
私がこの一件をうかがったのは、ちょうどそんな折でした。
「大関さん、どうしてこんなことになってしまったのだろう。僕は何が間違っていたのだろうか」。
彼は本当に悲しそうに落胆もあらわに話しました。ワンマンとも思える強いリーダーシップを持って組織を率い発展させてきた社長が、気がついてみれば「裸の王様」になっていたわけですから無理もありません。