経営者のアイデア不足も一因だ 「大卒3年後の離職率」高い業界を分析

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   先日(10月30日<水>)放送のNHK「おはよう日本」内のクローズアップ特集で「大卒3年後の離職率が高い業界」がテーマとして採り上げられ、私も取材協力とコメントをさせて頂いた。尺的に私が登場したのはほんの一瞬だったため、インタビュー時にお伝えした内容を今回詳しく述べさせて頂きたい。

   最大公約数的に網羅したつもりだが、もしヌケやモレがあれば読者の皆さまにもご指摘頂ければ幸いである。

大きな3つの原因

「石の上にも三年」と言われても…
「石の上にも三年」と言われても…

   厚生労働省の2013年度最新版統計によると、大学を卒業して就職後、3年以内に仕事を辞めた人の割合は31%で、業種別で細かく見た場合、「宿泊業・飲食サービス業」で51%に上っている。

   たしかに、「営業時間が長くてハードワークそう…」「客からのいろんな要求に対応するのが大変そう…」といったイメージがあるのはなんとなく分かる。しかし、3年で半分以上が辞めてしまうというのはどう考えても異常だ。複数回の面接を重ねて採用されている以上、能力面で大幅に劣っているわけでも、応募者の意欲がまったくないわけではないはずだからだ。では、なぜそんなミスマッチが起こってしまうのだろうか。

   飲食業を例にとると、大きな原因として業界の「構造的側面」「経営的側面」「日本的メンタリティ面」の3つが挙げられる。

【(1)構造的側面】

●需要不足なのに供給過多

   飲食市場規模は縮小しているにもかかわらず、関わる人の数と、一部業態の店舗数は以前よりも増えている。

   飲食市場規模のピークは1997年の約29兆円、店舗数は91年の85万店がピークで、その後10年でそれぞれ20%近く減少している。しかしその間も、居酒屋業態の店舗数は10%増加、労働者数は386万人から440万人へと14%増加している。小さい市場規模の業界に多くの店舗と多くの社員がひしめいているわけだ。

●労働集約型で、人件費割合が大きい

   単純労働力の提供が収益の源泉となっており、機械化が難しく、売上に占める労務費の割合が高いため、給与が圧縮対象になりやすい。

「努力は報われる」といった考えを都合よく利用

【(2)経営的側面】

●高度なスキルは不要で、労働力確保が容易

   多くの仕事がマニュアル化され、アルバイトでもこなせる単純作業で、高度な知識や経験は不要になった。採用対象となる母集団は数多いため集まりやすく、仮に誰かが辞めても「また雇えば問題ない」というイメージができ、経営側にとって「誰でもできる」「代わりはいくらでもいる」という考えになりやすい。結果的に「人を育てる」意識が低くなり、低賃金でこき使いやすくなる。

●経営陣の努力不足、アイデア不足

   業績が芳しくないとき、経営陣はその状況を打開するためにアイデアを出し、至らないところは改善し、実行していかねばならない。しかし彼らが思考停止し、安易に「値下げ」や「営業時間延長」に走ってしまうと、そのしわ寄せは従業員に来ることになる。「労基法なんか守ってたら利益は出せない」などと開き直り、薄給で責任感をもって頑張ってくれる社員に甘えて、利益が出るシステムを創ってこなかった責任は重い。

●採用での情報提供

   離職率が高い業界は必然的に不人気となり、就業希望者は相対的に減ってしまう。人が集まらなければビジネスも回らないため、採用時には「昇給する」「裁量権限を任せる」「社風がいい」など耳に聞こえのいいことばかりを前面に出してアピールすることになる。その情報自体は間違いではないにしても、一方で「ハードワーク」とか「重いプレッシャー」といったネガティブな情報を故意に伝えない。結果的に応募者の心構えが足りず、入社後「こんなはずじゃなかった…」というミスマッチを感じて、辞めてしまうことになる。

【(3)日本的メンタリティ面】

●労働に対する価値観

   「若いうちの苦労は買ってでもしろ」「石の上にも三年」「努力は報われる」といった考えを都合よく利用し、理不尽な業務量を強要する。また「過酷な環境に耐えられる者が偉い」という認識がまかり通っている。結果的に責任感が強い社員ほど「自分が頑張らなければ…」と一人で抱え込み、過労状態になってしまう。

   また同じ「薄給激務」状態でも、チェーン店だと叩かれて、高級料亭やミシュラン星付店だと修行の名の下に美談になるのは明らかにダブルスタンダードだ。違法な労務管理はすべてNGであるはずなのに……。批判する側の良識も問われている。

●おもてなし文化への甘え

   ユーザーにとって「お客様は神様」という意識が根強く、会社も客も、過剰な水準の接客サービスを従業員に強いる。これまたしわ寄せは従業員に来ることになる。

   ちなみにこの「お客様は神様」というフレーズは、演歌歌手の三波春夫から有名になった言葉だが、決して「金を払った客なんだから、神様扱いしろ」という意味ではない。「お客様を神様と捉える、そうすることで芸に磨きをかけ、心の雑念を払い最高の芸を見せることができる」という主旨である。

   相応の対価も払わずに、サービス要求水準ばかり厳しいお客様は「神様」ではない。高いレベルのサービスを受けて気持ちよくなりたいのであれば、相応の金を支払うべきなのだ。

「徹底的な情報開示」も必須

   解決策としては、まずは違法状態を看過しないことが大前提だが、まずは経営陣が「未払い残業ゼロ&高待遇でも利益を出せる仕組み」を創ることだ。同業界においても、不況下で売上を伸ばしている会社は確実に存在しており、企画やマネジメントなど相応の努力をおこなっていることが共通点となっている。

   また、「徹底的な情報開示」も必須だ。「当社はこれくらいの残業とプレッシャーがあるが、その分これだけのメリットを提供する」という具合に、不都合な真実を赤裸々にオープンにするのだ。応募者数は減るだろうが、その分覚悟を決めた人だけが参画することになるだろう。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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