仕事を終えて帰ろうとしたら、上司から「ちょっと1杯行くか」と声をかけられた。でも早く帰りたい、酔った上司から小言を聞かされるのは御免だし、楽しくない――
こんな理由で誘いを断る若手がめっきり増えた、という嘆き節が聞かれるようになって久しい。しかし、こうした「今どきの若者」論は、どこまで実態を反映したものなのだろうか。
日本型雇用は「家族の延長」
「ぼくがゲーム会社に入社したのは1987年。上司から呑みや晩飯に誘われたら、ほとんど断ることはなかったと思う」
ゲームデザイナーで立命館大学映像学部教授の米光一成氏は、「All About News Dig」に2013年11月4日掲載された記事の冒頭、こう書いている。その後自身が若手を指導する立場になり、新人を酒席に誘った。ところが返事は「就業時間外ですから行きません」とつれないものだった。ショックであり、「わざわざ『就業時間外ですから』と言うことないじゃないか、と思った」と心情を吐露している。
続けて米光氏は、日本型雇用について述べた。その特徴はメンバーシップ型、つまり家族の延長のようなもので「失敗しても、家族として守ってくれる。それが悪い方向に進めば隠蔽や偽装のようなことになる。良い方向に進めば、ファミリーとして仲良くやっていく協働の場として威力を発揮する」と説明する。家族でいることはうっとうしい面もあり、飲み会を断った新人は「ファミリーであることがウザかったのだろうと思う」。現代ではその仕組みにきしみが出ていると認めつつも、だからといって職務や労働時間、勤務場所が限定される「ジョブ型」に移行すれば問題が完全に解決するほど単純ではない。日本型とジョブ型の二者択一ではなく、新たな仕組みを生み出すべきと主張する。
論点の中心はここなのだが、前段の新人のエピソードが注目を浴びたようで、米光氏はツイッターで「『呑み会を断るな』という主張だと勘違いする人のリアクションすごいなー」とぼやいていた。また「その新人は、誰の誘いでもすべて断って徹底していて潔かった。それも、ありだと、ぼくは思う」としている。
確かにインターネット上には、米光氏と同様の体験をした先輩社員や上司の嘆きがしばしば書き込まれている。
若手が好む会社飲みは「安・近・短」
「会社の飲み会に若手が来ない」。質問投稿サイトには、こんな悩みが寄せられている。「仕事が終わっても上司と会う必要ない」とウンザリ顔され、「飲み会も仕事のうちだ」と怒る上司に「それなら残業代をください」と言い返す。
回答者は「時代が変わったのでしょう」。参加を強制するとパワハラと言われる、私の職場では新人の歓迎会に本人が不参加を希望した、というエピソードを披露した。
だが若い社員が全般的に会社の飲み会を嫌がっているか、と言えばそうでもない。ネオマーケティングが2013年7月3日に発表した「今どき"会社飲み"実態調査」では、20~30代の男女300人が回答を寄せたが、「会社の人と飲みに行くのは好き」との設問に「そう思う、ややそう思う」と答えた割合は全体の50.4%と半数を超えた。さらに新入社員100人のなかで、会社の人に飲みに誘われたら「うれしい、まあうれしい」との回答が76%に、「役に立つ、まあ役に立つ」は84%に達している。意外にも、肯定派が多いのだ。社内情報が得られる、会社の人と仲良くなれる、といった理由からだ。
ただし条件がある。短時間で終わる、1次会のみ、お金がかからずに近場ですませたい、というのだ。会社飲みは「安・近・短」が好まれている。
せっかく参加したのに、不快な思いをしたり先輩社員の無様な姿を見たりすれば「二度と行くか」と思うだろう。「下ネタ連発」「同僚や部下に対する不平不満や悪口のオンパレード」「泥酔、おう吐」「延々と自慢話を続ける」――。誘った上司自ら場を台無しにしては、若手社員が寄り付かなくなるのもうなずける。若手にとってメリットになる酒席をプロデュースする責任あり、ということだ。