会社の業務で出張した際にけがを負った場合、労災として認定されるのか。純粋な「仕事中」ではない時間、例えば移動時や宿泊中はどうなるだろう。
豪州ではこんな訴訟が提起された。女性が出張先の宿泊施設で知人男性と性交渉中に負傷し、「これは労災だ」と主張したのだ。
出張先での食事、移動中の睡眠は「業務起因性」あり
訴えた女性が事故にあったのは2007年のこと。報道によると、男性とベッドイン中に部屋の照明器具が落下して鼻と口にけがを負った。女性は労災を申請したが労働当局が却下したため、裁判に持ち込んだという。2012年に連邦裁が女性の訴えを認めたが当局が上訴、行政控訴裁は、出張中は原則的に就業期間内と認める一方で「性行為の時間は含まれない」と一転、女性敗訴の判決となった。最高裁は2013年10月30日、この判決を支持したため確定した。一連の流れを追うと、裁判所の判断もかなり揺れ動いたようだ。
日本国内では、出張中の労災認定はどうなっているか。労災保険情報センターのウェブサイトには、具体的な事例が取り上げられている。
実際に労災かどうかは労働基準監督署が判定するが、一般的に出張中は事業主の支配下にあり、その過程全般に「業務遂行性」を認めているという。「出張中は個々の行為についていちいち事業主の拘束を受けず、出張者の任意に委ねられている部分が大半であるという事情から、出張の性質上ある程度私的行為が介在することを許容しているというふうに理解すべきでしょう」との見方だ。
こうなると、出張先では食事や喫茶の時間、また移動中の列車内で睡眠をとっていたときに事故にあった場合、あるいは宿泊先で火事が発生した、食中毒にあった、というケースはいずれも、仕事がけがの原因となったという「業務起因性」が認められるという。
労災保険情報センターは「出張中に土産を探していたときに被災した」という例を説明している。例えば該当者が出張順路である鉄道の駅などで土産を購入していたとすれば、業務から逸脱した私用・私的行為と見ることはできない、一方で出張順路を著しく外れた場所での行為だったら「業務遂行性を失う」と説明する。前者の場合は、労災として認められる可能性が出てくる。
泥酔して階段踏み外したら労災ではない
弁護士・佐久間大輔氏の2013年4月21日ブログにも、出張と労災に関する解説が書かれていた。ここでも、移動時間や宿泊中を含めた全行程が業務の遂行とみなされると説明されている。
だが、宿泊先のホテルで泥酔して階段を踏み外した、またホテルへチェックインした後に私的な飲食で外出し、けがをした場合などは「業務の範囲外」とみなされるという。一方、ホテルに宿泊して宿泊中に火災が発生してやけどを負った場合は、業務起因性が認められると説明している。
「宿泊先での性行為中にけが」の事例は見当たらなかったが、国内ではこんな判例があったようだ。出張中に会社が指定した宿泊先ではなく、現地で知り合った女性と別のホテルに宿泊した際に火災にあって焼死したというケースで、これは出張による業務を逸脱した行為と判断された。つまり、労災は認定されなかったという。
豪州の事例で最終的に労災が却下されたのは、たとえ出張中でも業務から全く離れた「私的な行動」の最中に被災したという見方が強かったためだろう。単に、ひとりで就寝していたら照明器具が落ちてきてけがをしたというのであれば、「業務の流れのなかでの被災」として労災が認められたのかもしれない。