少子高齢化が深刻化し、労働人口の減少が懸念される日本でしばしば議論されるのが、移民の受け入れだ。産業界では以前から、優良な人材確保のために国レベルで移民政策に取り組んではどうかとの提言が出されている。
だが高い能力をもった移民は海外で「争奪戦」となっており、そもそも日本に来ないのではと危惧する意見もある。
ITや研究開発、金融の「高度人材」に照準
慶應義塾大学教授で、政府の産業競争力会議のメンバーでもある竹中平蔵氏は、2013年7月16日付「現代ビジネス」に掲載された田原総一朗氏との対談の中で、移民の受け入れに賛同を示している。人口減少社会でも成長を実現するための施策として、「10年、20年のタームだと、移民を受け入れればいいんですよ」と主張した。米国や豪州と成長戦略を議論する際は、最初に移民について話すのだそうだ。産業競争力会議では「移民」という語句は使っていないが、「経済成長に必要な人材確保のための人材交流について、官房長官の下で全省的に基本的な議論をする場を作っていただきたい」と要請。もちろん無条件で引き受けるのではなくきちんとしたルールが必要だが、「タブーを作っちゃいけないんですよ」と力説している。
日本経団連は2008年10月14日、「人口減少に対応した経済社会のあり方」と題した提言をまとめた。この中に「国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討」という項目がある。日本同様、少子高齢化や人口減少が進む欧州の先進各国では移民政策や関連制度の改善、見直しが行われていると説明。日本ではこれまで専門的・技術的分野における高度なレベルの人材と、国際協力の観点から外国人研修・技能実習生を受け入れてきた。だが今後の対策として、「ITや研究開発部門、金融、商品開発、海外事業展開等の分野で活躍が期待される高度人材」をターゲットに定め、在留資格の要件緩和や柔軟な運用を進めていく必要性を強調した。
ただ、例に挙げられた欧州では今日、移民政策が必ずしも奏功しているとは言えない。2013年10月10日付の日本経済新聞によると、欧州連合(EU)では北アフリカや中東の政情不安な国から移民が急増する一方、EU域内の国々の経済状況が悪化しており、対応に苦慮しているという。アジアでも、シンガポールが外国人労働者の規制を専門職に拡大すると、米ブルームバーグが9月24日に報じている。
「移民の人材だって国際競争に晒されている」
移民とは異なるが、日本では2008年度から、経済連携協定に基づきインドネシアやフィリピンから看護師、介護福祉士候補者受け入れをスタートした。厚生労働省によるとこの分野は外国人の就労が認められておらず、国家資格の取得を目指すのを条件に日本に滞在しながら病院などでの実務研修を認める。国としては、単純労働者の受け入れとは一線を画している。
だが問題は少なくない。候補者は日本語で国家試験を受験せねばならず、難解な専門用語をすべて理解するのは時間がかかる。決められた期限内に試験をパスするのは難しく、母国での経験がある「プロ」でも言葉がネックとなって本来の能力を生かせないままやむなく帰国する例も出ている。
また、たとえ「高度な能力のある移民を受け入れよう」と積極姿勢を見せても、こういった人材が果たして日本を選ぶのかという疑問もある。米投資顧問会社に勤務し、ウェブサイト「Market Hack」を運営する広瀬隆雄氏は「移民の人材だって国際競争に晒されている」と指摘する。
移民の国である米国では、今でも新しい移民は入ってきている。IT企業の中心地である西海岸の「シリコンバレー」の場合、アップルやグーグル、フェイスブックといった名だたるハイテク企業で「創業者グループに移民1世、2世」が混じっており、その割合も6割に上ると説明する。さらに慢性的な理系人材不足に悩まされており、「ちょっとデキるソフトウェア・エンジニアなら、1200万円くらいの基本給を払わないと、雇えない」そうだ。果たして日本企業が、同じ土俵に立って優良な人材を引っ張ってこられるだろうか。また日本に魅力を感じてもらえるかも微妙だ。広瀬氏は、最後はこんな痛烈なメッセージで締めくくった。
「『移民さえ日本に受け入れれば、すべては解決する』なんて、愚にもつかないことを夢想する時間があれば、もっとグローバルな競争の文脈から、日本の立ち位置を考え直しては如何?」