職場で自分が座る席に満足しているだろうか。「隣の人の声が大きすぎる」「エアコンの冷風が直接当たってつらい」「入口の近くで人の出入りが激しく落ち着かない」と、インターネット上ではこんな愚痴が聞こえてくる。
たまには席替えでもして、新たな気持ちで仕事に臨むのもよさそうだ。実は周りに誰が座るかで、自身の業務にも影響が出てくるという報告もある。
「ごちゃまぜ配置」で年間数十万ドルの経費節減に
米ウォールストリートジャーナル(WSJ)電子版は2013年10月8日、近年米企業の多くが、広いワンフロアスペースで社員の座席をあえて決めない傾向があると伝えた。「誰が誰の隣に座るか」は重要で、職場内で1日に話したりする相手は「隣席の同僚」が40~60%に上ると計算した経営者もいるという。
米マサチューセッツ工科大学スローンスクールのクリスチャン・カタリーニ准教授は、こんな実験をした。大学の研究者を「ごちゃまぜ」にして別々の研究棟に配置したところ、画期的な発想が生まれたという。ニューヨークにある広告代理店では半年間、経理担当者とメディアバイヤーを混ぜて席を設定したところ、メディアバイヤーたちが社内の財務事情を詳しく理解するようになった。独立した経理部門は不要になり、年間数十万ドルの経費節減につながったそうだ。もっとも経理担当者にとっては部署が消滅する「災難」となってしまったが。
国内では近年、社員の席を固定しない「フリーアドレス」を導入する企業が徐々に出てきた。こうなると「毎日が席替え」の感がある。パソコンやタブレット型端末があれば業務に支障が出ないような業態であれば、仕事の場所は問わない。周りの顔ぶれが頻繁に変わることで刺激が増えるかもしれない。
カルビーは2010年1月にフリーアドレスを採用し、今日も続いている。席は、出社の際にコンピューター入力すると所定の場所が与えられる仕組みだ。同社広報に電話取材すると、部署の枠を超えた「ひとつの会社」としてのコミュニケーション活性化を目的に始めたのだという。
電話での会話内容から「こんな仕事しているのか」
広いフロアに社員は約200人。「壮大」な光景にカルビーを訪問した人からはしばしば「すごい」と驚きの声が上がるという。「自由席」のため、隣の席にどの部署の誰が来るかは顔を合わせるまで分からない。取材に応じた広報担当者も、「外部からの連絡に対応するために1席だけ固定席がありますが、そこに座る担当者も日替わり。基本的に私も毎日違う人が隣に座っています」と明かす。
隣に座るだけで、その人がどんな仕事を受け持っているのかがよくわかるそうだ。「電話での会話内容から『こんなことをしているのか』と気付くことがあります」。さらに直接会話を交わせば、相互理解はより深まる。
規模が大きい企業では、フロアごとに部署が分かれるケースは少なくない。ともすれば「たて割り」となり、別部署に協力を求める際は「お願い」しないと受けてもらえなかったり、時にはいがみ合ったりといった話も聞く。会社としてひとつのゴールを共有しているはずなのに、部署ごとに自分たちだけの利益を守ろうとしているようでは問題だ。
個々の社員同士で理解が進めば、どの部署がどんな業務を担っているかが明らかになり、社内で協力態勢が取りやすくなると、カルビーの担当者はメリットを口にした。同時に「各自の机の周りがきれいになった」のも改善点だという。明日はどこに座るか分からないので、必ず片付けてから退勤するのが約束となっているためだ。常にオフィス全体が整理整頓されていれば、毎日スッキリと仕事に臨めるだろう。