部長も逃げ出す「高離職率の元凶」社長 こういうタイプが社員をつぶす

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   関東圏で介護施設を複数運営するC社。業績は順調ながらスタッフの定着率が悪く、総務部長のMさんに社長から「早急になんとかするように」と厳しい指示が出されました。Mさんは私の旧友。以前から現場の労働環境改善要求もあり社長命令との板挟みに困って、私のところに相談に来ました。

   「この業界はそもそも、低賃金、長時間労働で定着率が悪いのですが、中でもうちは特にひどいのです」。根本原因と思しきは、やはり低賃金、長時間労働のようではあるのですが、私は同業でも比較的定着率の高い企業を知っていたので、何か他にも離職率を上げている理由があるのではないかと思い、C社の特徴を尋ねてみました。

ネット上、出るわ出るわの社長批判

そして誰もいなくなった?
そして誰もいなくなった?

   Mさんは一瞬黙って考えた末、「やっていることにはこれといって特徴はないのですが、あるとすれば、創業者でもある社長が超ワンマンで株主はもちろん役員も夫人を含めた一族で構成されている完全一族経営ということぐらいでしょうか」と話します。夫人はじめ一族は名ばかり役員とのことで、実質社長一人で会社を運営している個人商店のまま施設を増やし、上場も視野に入る従業員200人ほどの会社にまで成長したようです。

   私はこの話を持ち帰り考えました。そして、この規模で超ワンマン経営ということはネット上に原因究明のヒントになる社員の書き込みがあるのではないか、と思い調べてみました。すると、出るは出るは転職サイトの口コミ情報はじめネット掲示板にもこの会社の名前が入ったスレッドが存在していました。

   書き込みは若干古いものもありましたが、そのほとんどは経営批判ともとれる内容でした。

「社長は現場を見ない、知ろうとしない。諸悪の根源。カネの亡者」
「劣悪な労働環境の原因は、社長一族の搾取体質。平均勤続1年未満」
「部長クラスはすべてイエスマンの奴隷。北朝鮮を見るようだ。"脱北者"続々」

等々、「ブラック企業だ」と言う批判含めて似たような内容の書き込みがズラリと並びます。

   すべてが事実ではないにしても、火のないところに煙は立ちませんから、真偽のほどを確かめるべくMさんに頼んで社長と面談をさせてもらうことにしました。企業コンサルタントとして現場の利用者やスタッフの環境改善にかかわる提案に、どのような反応を示すのかを見て、書き込みの真偽確認とMさんへのアドバイスの結論を出したかったのです。

おカネ増える話以外、興味ありません

   先方に訪問して自己紹介を済ませると、おもむろに本題を切り出しました。

「私のクライアントでさまざまな施設の抗菌施工を手掛けている会社がありまして、老人施設や、幼稚園、保育園などで利用者やスタッフのインフルエンザ等の感染予防にお役立ていただき大変喜ばれています。手始めにそのお話をさせていただけますか」

   すると社長は、耳を疑うような回答を即座に返しました。

「大関さん、それはおカネがかかる話であって増える話ではないですね。僕は忙しい。覚えておいてください。僕はおカネが増える話ならいつでも時間をとって聞きます。上場を目指している今はそれ以外の話に興味はありません。ご理解ください」

   いきなり予想以上の直球返答に言葉を失い、私は「貴重なお時間を大変失礼いたしました」とだけ言い残して、先方オフィスを後にしました。

   社長の一言で、社員のネット上への書き込みはどれもほぼ事実に違いないと確信しました。

   C社のようにいくら上場と言う眼前の目標があるとは言え、自己の事業ミッションを「カネ儲け」と公言してはばからない経営者の下で、スタッフが何かの折に支えにすべき仕事に対するプライドは維持できようもありません。

   例え低賃金、長時間労働であっても(もちろん法の範囲内であることは大前提)、経営者が自社の事業のミッション、すなわち自社の社会的存在意義を明確に提示しスタッフがそれを共有できるなら、ある程度の定着率向上は見込めるものです。同業で比較的離職率の低い企業はそのパターンでした。しかしC社のような経営者の下では、定着率向上などおよそ望むべくもない状況であると言っていいでしょう。

   経営者は飛躍のチャンス到来の時ほど、自社のミッションを忘れて利益確保に走りがちです。しかしそのような折にあっても、経営者の事業目的が単なる「カネもうけ」であるとスタッフに伝わるなら、徐々に彼らは経営者の私利私欲のために自分たちは利用されているに過ぎないと感じることになり、自己の利益が守られないのならばスタッフの勤労意欲は急激に衰えてしまうでしょう。これは離職率の高い低賃金・長時間労働の職場では、実に起こりがちなことなのです。

   社長と私の面談に同席したMさんも、あの社長の発言には相当ショックを受けたようで、社長との仕事に嫌気を感じてほどなく転職されました。C社に残れば幹部社員として上場の恩恵もあったかもしれませんが、Mさんは賢明な選択をされたと私は思っています。C社は未だに上場のメドは立っていないようです。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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