おカネ増える話以外、興味ありません
先方に訪問して自己紹介を済ませると、おもむろに本題を切り出しました。
「私のクライアントでさまざまな施設の抗菌施工を手掛けている会社がありまして、老人施設や、幼稚園、保育園などで利用者やスタッフのインフルエンザ等の感染予防にお役立ていただき大変喜ばれています。手始めにそのお話をさせていただけますか」
すると社長は、耳を疑うような回答を即座に返しました。
「大関さん、それはおカネがかかる話であって増える話ではないですね。僕は忙しい。覚えておいてください。僕はおカネが増える話ならいつでも時間をとって聞きます。上場を目指している今はそれ以外の話に興味はありません。ご理解ください」
いきなり予想以上の直球返答に言葉を失い、私は「貴重なお時間を大変失礼いたしました」とだけ言い残して、先方オフィスを後にしました。
社長の一言で、社員のネット上への書き込みはどれもほぼ事実に違いないと確信しました。
C社のようにいくら上場と言う眼前の目標があるとは言え、自己の事業ミッションを「カネ儲け」と公言してはばからない経営者の下で、スタッフが何かの折に支えにすべき仕事に対するプライドは維持できようもありません。
例え低賃金、長時間労働であっても(もちろん法の範囲内であることは大前提)、経営者が自社の事業のミッション、すなわち自社の社会的存在意義を明確に提示しスタッフがそれを共有できるなら、ある程度の定着率向上は見込めるものです。同業で比較的離職率の低い企業はそのパターンでした。しかしC社のような経営者の下では、定着率向上などおよそ望むべくもない状況であると言っていいでしょう。
経営者は飛躍のチャンス到来の時ほど、自社のミッションを忘れて利益確保に走りがちです。しかしそのような折にあっても、経営者の事業目的が単なる「カネもうけ」であるとスタッフに伝わるなら、徐々に彼らは経営者の私利私欲のために自分たちは利用されているに過ぎないと感じることになり、自己の利益が守られないのならばスタッフの勤労意欲は急激に衰えてしまうでしょう。これは離職率の高い低賃金・長時間労働の職場では、実に起こりがちなことなのです。
社長と私の面談に同席したMさんも、あの社長の発言には相当ショックを受けたようで、社長との仕事に嫌気を感じてほどなく転職されました。C社に残れば幹部社員として上場の恩恵もあったかもしれませんが、Mさんは賢明な選択をされたと私は思っています。C社は未だに上場のメドは立っていないようです。(大関暁夫)