女性が出産後も同じ職場で働き続けるために、短時間勤務(時短)の制度を利用するケースが増えてきた。仕事と子育ての両立を図るための仕組みだが、利用者側、雇用側の企業、さらには同じ職場の同僚それぞれが現状に百パーセント満足しているわけではない。
時短勤務者は、「簡単な仕事」に回されて力を発揮できないと嘆く。同僚は「仕事の負担が増えた」とぼやき、会社側は人材活用のうえで手探りが続く。
中長期的には「モチベーションや能力の低下に」
時短により、仕事内容が物足りなくなったと打ち明ける女性が、2013年10月20日付の朝日新聞で紹介された。重要な会議は退勤時間後に開かれ、昇進は無理かな、とため息だ。出産イコール「仕事をあきらめた」とみられるのが不本意との悩みも聞こえてきた。
独立行政法人の労働政策研究・研修機構が発行する「日本労働研究雑誌」2012年10月号に掲載された、東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部・松原光代氏の報告書では、時短制度の利用長期化がキャリア形成にどう影響するかが論じられている。制度の充実により適用期間を延長したり、複数の子を出産・育児したりして、育児休業と合わせて5~10年利用するケースが出てきているという。親の介護で長期間の時短勤務という人も増えてきた。
企業でキャリアを積むには、職場の異動や、各職場におけるOJT を通して易しい業務から難しいものに移っていく過程で形成される。だが時短勤務者は、限られた時間内で可能な業務に従事し、それが長期間続くこともある。すると「短期的には職場の業務効率性を維持できても,中長期的には短時間正社員として働く従業員のモチベーションや能力の低下が懸念される」と指摘する。業務面での「成長ルート」から外れ、スキルアップや知識の習得が遅れてしまうのだ。雇用側にとっても「必要な中核人材を育成・確保できず内部労働市場が希薄化する可能性がある」。双方にとって好ましいとは言えない。
本人の能力を生かすのは、上司の責任だ。朝日新聞の記事では管理職の研修の様子を紹介。講師は受講者に、「時短勤務者は早く帰りたがっている」と決め付けず、子育ての家庭での協力態勢を確認し、繁忙期に残業できるかを確認することが大切だと説いた。可能な限りキャリアアップにつなげる配慮をしてもらえれば、時短勤務者も職場での将来像が描け、やる気が向上するだろう。