会社にきて、やることは読書。そんなリハビリ復職ならOKです。その時、会社・上司の判断は?――過去1年間にメンタルヘルス不調を抱えた労働者がいる事業所の割合は全体では13.9%だが、人数規模「100人以上300人未満」の事業所では49.2%に跳ね上がり、「1000人以上5000人未満」では95.5%にも達する(厚労省「労働災害防止対策等重点調査」2011年)。「50人以上100人未満」でも25.4%と4分の1を超える。
もはや「よその会社の問題」では済まなくなっている社員のメンタルヘルス問題。ある経営者が、休職中社員のリハビリ出勤による復職について悩みを相談してきた。
会社に来て仕事をせずに読書をする
――中小印刷会社の経営者です。来月からメンタル不全で1年間休職していた社員が復職します。医師の診断書には「復職は可能」と書かれていましたが、
「ただしリハビリ出勤などの配慮が必要」
という記載もあります。
リハビリ出勤が何なのかと、いろいろ聞いてみたところ、どうやら「仕事はせずに通勤だけして帰る」「会社に来て仕事をせずに読書をする」ということだと知り、弱っています。
ただでさえ人数が少ない中でやっているので、わが社では現実的に無理です。こんなことを許したら手間ばかりかかりますし、他の社員から文句を言われます。
これでは医師が何と言おうとも、私には「治った」とも「復職可能」とも思えません。復職すれば給料が発生しますし、普通に働けるようになってから来るようにしてもらいたいものです。
ただ、先日経営者の会合で愚痴を言ったら、先輩社長から「慎重にやらないと後で問題になるぞ」と忠告されました。とはいえ、彼の会社は従業員が1000人近くいるので、ウチのような零細オーナー企業とは訳が違います。
こんなことを言うと、「企業の社会的責任が」と無責任に言う人が出てくることはわかっています。しかし、すべての会社に重い基準を当てはめられても困ります――
社会保険労務士・野崎大輔の視点
リハビリ出勤をやらないといけない義務はない
リハビリ出勤制度は法律で実施義務があるわけではないので、会社として取り組むのが難しいという判断なのであれば、無理に実施する必要はありません。復職に際し、医師の診断書は復職判断の参考とはしますが、どのくらいまで回復したら復職を認めるといった基準は会社で決めていいので、会社が求める基準に達していないのであれば復職を認めなくてもよいと思います。
最近ではリハビリ出勤を受け入れることが当然とされていますが、もし行うとすればそれなりの準備が必要です。リハビリ出勤の期間は給与支払いや業績評価の対象とするのか、労災・通災の適用範囲となるのか、リハビリ期間に制限を設けるのか、など、あらかじめ運用のルールを決めておくなどの注意が必要です。このようにリハビリ出勤制度を実施するには会社の負担は小さくないので、実施しているのは比較的規模が大きい会社が多く、中小企業で導入するケースは少ないのが実態なのです。
臨床心理士・尾崎健一の視点
リハビリ出勤は「復職の成功率が高い」という調査結果も
厚生労働省では休職後に、段階的な出社で復職の支援をする「試し出勤制度」の導入を推奨しています。これが「リハビリ出勤」と呼ばれるもので、勤務時間帯を会社で過ごす「模擬出社」や、通勤時間とその負担に慣れる「通勤訓練」、試験的に軽減した業務を行う「試し出勤」が挙げられています(「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」より)。
メンタルヘルス休職からの復職の可否判断は難しく、再発率が高いため、可否判断の見極めや復職直後の負担を調整しやすくするリハビリ出勤を行う企業が多くなっています。リハビリ出勤制度がある企業は「復職の成功率が高い」という調査データがあり、一定の効果があると言えます。一方、これらを社内で行うことは会社としての負担もあるため、最近では外部のリワーク機関を活用して、リハビリ出勤と同等のことを行ってから復職するケースが成果をあげている会社もあります。この場合の費用は会社が負担するか否かは、会社ごとに違いがあるようです。