人材コンサルティング会社「ディスコ」が2013年10月2日に発表した調査結果では、企業が外国人留学生に求める資質で最も重視するのが日本語力だった。半面、言葉の壁による社内トラブルが高い割合で発生している。
日本の大学を卒業した留学生なら、標準的な日本語は高いレベルで有しているだろう。だが仮に、配属先が関西や東北、九州となったらどうだろう。方言を話す相手のニュアンスを取り違え、トラブルになりかねないようだ。
「軽い調子」が「厳しい叱責」に聞こえる
関西に本社拠点を置くパナソニックやクボタ、大和ハウス工業などは、外国人社員向けの共同マニュアルの作成にあたっている。業務上でのコミュニケーションを円滑にするためだが、ユニークなのは「関西弁の理解」に重点をおいていることだ。
関西企業で、日本人上司と外国人社員の間でミスコミュニケーションが起きている――。2013年10月6日付の「産経ニュースwest」はこう報じた。上司が口にした「お前、何しとんねん」とのひと言。本人は「軽い調子でミスに触れたつもり」が、言われた外国人社員は「『何ということをしたのか』という非難」に聞こえたというのだ。「アホか」「なんでやねん」という突っ込みも理解されない。このためマニュアルでは、「外国人社員の活躍には普段からの密なるコミュニケーションが大切と指摘」する。日本人上司には、方言の代わりに「分かりやすく前向きなアドバイスを」送るよう促すという。
関西の大学出身なら、学生時代に関西弁に慣れているはずだ。だが留学先が東京だったら、アルバイト先などで関西出身の友人でもできない限りは生で耳にする機会がないだろう。ツイッターには、「別に外国人ではなくても、関西弁のニュアンスが関東人にはわからないことがある」「(関西弁は)まあ日本人でもビビるからな」「普通に喋ってるけど他の地方の人達からは怒鳴り合ってるように見えるって聞いたことがある」との書き込みがある。同じ日本人でも、方言が理解できない、話すトーンが強く聞こえてつい腰が引けてしまうという印象を持つ人が少なくない。ましてや外国人で、上司が強い調子で聞こえる関西弁を使って注意してきたとすれば、「怒られている気分」になるかもしれない。理解するきっかけもつかめず、気分がどんどん落ち込むというわけだ。
遠慮なく「ダメ」と断る九州が心地よかった米国人
ツイッターには「関西弁を使わなければいい」との指摘があった。関西の企業が作成しているマニュアルでも、日本人上司の側から歩み寄って意思疎通を円滑にするようアドバイスしているそうだ。ただ関西に限らず地方出身者にとって、何かの拍子に「お国言葉」が出るのはとめられないだろう。
実は日本人社員にとっても、外国人社員との日本語でのやり取りは時に悩みの種となる。2013年10月2日付「マイナビニュース」では、500人を対象に「外国人社員と話すに当たっての苦労、悩み」を聞いた。双方が日本語で話すケースでは、「たまに日本語が通じなく、その説明の日本語も通じなくて説明のしようがなくて困った」「日本語が話せても、書けない人は結構多い」「敬語が苦手なのか、たまに上司にもタメ口のような話し方になっている」といった意見が寄せられていた。いずれも確かに面倒だが、本人の日本語力向上のために日本人社員が面倒を見てあげれば相互理解が深まるのではないか。
なかには、「日本人ならではの愛想笑いが理解できなくて怒り出したりしたことがあった」という回答もあった。ケースは違うが、関西弁のニュアンスを取り違えている外国人社員と同様、誤解から生じるものだ。これもやはり、丁寧に説明するしかないだろう。
もっともこんな事例もある。東京の大学に勤務していた米国人教員が、九州の大学に転職した。日本語は堪能だが、九州に住むのは初めてだ。本人いわく、物事を断ったり否定したりするときに、東京では少々遠まわしで分かりにくい表現を使われたが九州では遠慮なく「ダメ」と一刀両断にする、それがかえって心地よかったという。別の例では、関西の取引先で中国人社員が「関西弁を話していて驚いた」という声もある。外国人によっては、方言の言い回しやニュアンスの方が腑に落ちたり、高い順応性でその土地の言葉を習得したりすることもあるようだ。