「何としても」「うまくやれ」は部下の不正を誘発するキーワード

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部下の中で「手段を選ぶな」と形を変える言葉

   上から「何がなんでもやれ」と言われ続けるうちに、部下の心の中では、その言葉が「手段を選ぶな」「うまくやれ」と形を変えていく。しまいには「多少のルール違反はしても構わないんだ」と自分に言い聞かせ、不正を正当化するようになってしまう。

   例えば、まだ納入先の検収が済んでいなくても、「いずれ売上になるんだから」と考えて前倒しで計上してしまう。さらに悪いことに、不正をずるずると続けるうちに、いわゆる「コンプライアンス意識」が麻痺してしまい、歯止めが効かなくなる。

   不正を隠すための不正も重なって、本社が気づいた時にはとんでもない金額になっているということも少なくない。不本意ながら不正を続けるストレスや不満が高じて、会社のカネを個人的に着服するような悪循環も生じてしまう。

   「目標必達」自体は悪いことではなく、給料をもらう以上はその覚悟をもつべきである。しかし「目標を達成しろ」という檄に、「何としても」「何がなんでも」という枕詞をつけてしまうと、部下による不正のリスクをグンと高めてしまうということを、上司は肝に銘じる必要がある。

   収益額や獲得件数など数字上の結果だけで評価すると、部下は数字を作ってでも自分をよく見せようとしがちになる。目標の達成に向けてどのように努力したのかにも、きめ細かく目を配ることも大切だ。

   偽りの業績は必ず化けの皮がはがれ、自分にも会社にも多大な損失をもたらす。社員はそう肝に銘じて、どんなに厳しくても一線を越えない強さを養いたい。そして上司は、「どんなに数字を上げてもルール違反をしたら絶対に許さないぞ」という姿勢を明確にしつつ、大切な部下を孤立させないように目標必達を支援する社風をつくりたい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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