まじめで勤勉な中小企業の社長さんが、なぜか追い詰められてしまう理由

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   もう4~5年前の話になります。銀行時代に懇意にさせていただいた取引先の社長の訃報が、突然舞い込んできました。病死とのことだったのですが、まだ60代半ばで、半年ほど前にお会いした際にも元気に働いていたので合点がいかずにいると、しばらくして自殺であったとの報がもたらされました。

   これには本当に驚かされました。取引店の支店長に尋ねてみると、業績はとくに問題はなく、資金繰りも安定。遺書はなく、思いあたる節はないものの、最近医師から躁鬱の気があると言われて投薬をしていた様子で、突発的な出来事ではないかとのことでした。

   まじめで誠実、従業員思いの本当に人柄の良い紳士でした。しかし、まじめが故に何かを思いつめたのかもしれません。

従業員を雇うことの「責任」を背負っていた

社長とは「会社に託された運命共同体の責任者」という自覚
社長とは「会社に託された運命共同体の責任者」という自覚

   社長の言動を思い出してみると、思い当たるものがありました。私が銀行を辞めて独立する旨の挨拶状をお送りした際に、社長から電話をいただき、こう質問されました。

「大関さんの独立は、個人事業主ですか、会社経営ですか」

   私が会社経営だと答えると、「銀行員の大関さんは十分お分かりとは思いますが、会社を経営するというのは大変なことです。従業員とそのご家族の生活がすべて会社に託された運命共同体の責任者になるのですから」としみじみ話してくれました。

   社長は「責任」という言葉を繰り返しながら、従業員を雇うと言うことはそのお子さんやお孫さんの生活を支える必要があり、大企業のように何年か毎に社長が変わるわけではない中小企業では、社長は長きにわたって会社を繁栄させていく責任を負っているのだと力説されました。

   社長亡き後は、奥様が社長を務められましたが、ほどなく40代になったご子息が後を継がれたという挨拶状が届きました。私も面識がありましたが、先代に似てまじめで実直。やや線は細い気がしましたが、先代と同じく人柄の良さで、内外の人間関係を上手に作っていけそうな印象ではありました。

   それから約1年、今度は同社の役員に銀行からの出向者が派遣されたという話を耳にしました。出向者はたまたま私の良く知る人物でした。業績は悪くないと聞いていたので、若社長が銀行に要請したのだなと思い、真意を確認するべく会社を尋ねてみました。

「中期的展望」と「人の力を借りること」の重要性

   ちょうど居合わせた社長は私の事を覚えていてくれて、話が事のほか弾みました。やはり銀行に人の派遣をお願いしたのは社長でした。

「中期戦略を一緒に練ってくれる人が欲しいと思いましてね」

   聞けば社長に就任して、若い頃から先代にいろいろな教育的な話を聞かされていたので、企業トップの「責任」という重圧に押しつぶされそうになったとか。

「親父が思いつめた理由は今さら知る由もありませんが、あらゆることを自分一人で指示して取り組んできたものの、モグラ叩きになりがちだったのは間違いないなと。自分がその立場になってみて、よく分かりました」

   1年間社長のイスに座った結果、先代の失敗を踏まえ、経営の中期的な道筋を練る重要性に気がつきました。そして、自分ひとりで悩まずに人の力を借りるために、銀行から人を迎えるという結論に至ったようです。

   自殺にまで至るケースは多くないとしても、経営者には人知れぬ悩みはつきものです。若社長が気づいた「中期的展望」と「人の力を借りること」があれば、世の中小企業経営者の悩みのある部分は、かなりの確率で解消するのではないかと思いました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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