仕事の基本は、人とのコミュニケーション。話しているときには、相手がどの程度、自分の話に関心を示しているかをよく見ることが大切です。自分が話した言葉のうち、相手が反応したものを見逃さないように注意するのです。
何が相手の心の琴線に触れたのか。相手はどんなキーワードが気になるのか。そういうポイントをすかさずキャッチしなければいけません。さらに大事なのは、キーワードだけではなく、それが相手の琴線に触れた理由や背景を考えることです。
返事が芳しくないときには逆の方向に振ってみる
フレンチ・レストランを例に挙げます。仮にあなたがシェフだとして、お客さんから「今日のお勧めのメニューは何ですか?」と聞かれ、「そうですね。今日はジビエ(野生の鳥獣)があります」と答えたとしましょう。
しかし、お客さんの反応があまり芳しくなく、「うーん。ほかには何がある?」と重ねて聞かれました。そういうときに、あまり考えもせず「キジ料理もお勧めですよ」などと言っても、きっとオーダーされません。
そういうときは、逆に方向を変えて「オーガニックの野菜があります」と答えてみるのがいいでしょう。それで「いいじゃない」と強い反応が返ってくれば、相手の求めていることはかなり掴めたといえます。おそらく、このお客さんは「健康志向」なのです。
「健康志向」のお客さんに脂っこい肉料理を勧めても受け付けてもらえないのは容易に予想できます。だから次には、オーガニックのワインを勧めたら喜ばれる可能性が高い。
逆に、最初にジビエを勧めたときに、「ジビエ! いいねえ」という反応が返ってきたら、このお客さんは肉料理をガッツリ食べたいのかもしれません。そうしたら、
「今日はいい鴨もありますよ」
と勧めてみます。ワインも濃い赤を提案してみよう……というふうに、売り上げにつながるようなアピールをしていくことができます。
「半額」に反応したら「コスト」を攻めていく
要するに仕事のコミュニケーションにおいては、相手の琴線に触れたキーワードから、相手の志向を見出していくことが重要なのです。その志向に沿ったものを売り込むと、相手に受け入れられる可能性が高くなります。
相手が「え、半額なの?」と反応したら、相手は「安さ」や「コスト」に興味があると考えられます。「効率がアップします」という言葉に反応したら、「時間がない」「残業が多い」といった理由が考えられます。
「女性の意見によると…」という言葉に反応したら、「女性のマーケティング」や「女性の購買力」に興味があると考えられます。「世の中のためになります」という言葉に反応したら、「社会貢献」や「CSR」に注目しているのかもしれません。
以前、私が知人に「A社のBさんが法令違反で捕まった」という話をしたところ、「それ、詳しく聞かせてよ」と食いついてきました。相手は「企業のコンプライアンス」が関心事だったのです。そこから話が進み、売り込みに成功したことがあります。
相手の琴線に触れたキーワードに気づいて、その理由が分かれば、その後の売り込みの方向が絞られ、成功率が高まります。(高城幸司)