リスクは誰が負担するの?
本来なら、政治はリーダーシップを発揮して、有権者に対し「いま、なすべき政策の数々」を説明し、理解を求めるべきだろう。でも、それはなかなか難しい。これまで一度として民主化のために汗を流した経験がなく、気が付いたら世界トップレベルの経済大国に暮らしていた我々日本人は、どちらかというとそうした議論は苦手である。
ネットでちょっと「増税反対」とググるだけで、「お上は何をやっているんだ」「自分以外の誰かから取れ」という先進国らしからぬ民度の方々が溢れんばかりにヒットする有様だ。
これは「政府は余計なことをせずに税金を安くしろ」という小さな政府派とも「もっともっと大きな政府にしよう、そのためにいっぱい税金も上げよう」という大きな政府とも異質な、なんというか封建時代の民衆そのままである。こういう人たちにロジックで説明しても、らちが明かない。それで仕方なく、政治はリスクを労使に丸投げしたのだろう。
「あー君たち、悪いけどここはひとつ、デフレ脱却のために頑張って賃上げしてね。将来大変なことになるかもだけど」
これが、労組トップが政府の賃上げ要請に喜ぶどころか怒っている理由だろう。政治はやること何にもやってないじゃないか、なぜ民間の労使だけがリスクを取らねばならないのか。古賀さんでなくてもバカにするなと怒るだろう。
もっとも、実際に大企業の労使は、そんな呼びかけ程度で賃上げするほど甘くはないので、今回の要請自体、政治から有権者に対しての「私たちはやることやってます」アピールに過ぎないのかもしれない。その場合、一番バカにされているのは有権者ということになるが、バカにされていると気付かない人たちにとっては「経営者が悪い、労組も根性なしだ」とハッスルできる相手ができて案外幸せなのかもしれない。(城繁幸)