政府の男女共同参画基本計画には「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標が定められている。この数字は各企業にも影響を与えているようだ。
ある会社の人事部では、「女性管理職の数」が組織の中期的な数量目標として掲げられ、具体的な計画を推進しているという。しかし現場からは「逆差別だ」などといった声もあがっており、担当者が頭を抱えている。
他部署に根回しせず「ダメなら根拠示して!」
――金融機関の人事です。社会のダイバーシティの流れを受けて、女性管理職の登用を始めています。これまで管理職は男性だけでしたが、昨期は「女性管理職2名」という目標を立てて候補者を絞り込みました。
そして適性アセスメントを行い、上長から推薦してもらうことで目標通り2名の管理職を誕生させました。ところが、そのうちの1人のA課長の評判が芳しくないのです。
部下の男性社員によれば、部の案件について稟議を上げる際、前の上司は他部署に「根回し」をしてくれていたのですが、A課長はこう言って聞かないのだそうです。
「何かをやるときには、リーダーシップが大事なの。それにスピードも必要。いちいち他人の顔色をうかがって同意を取っているからダメなのよ。もしもダメなら、きちんと根拠を示して言えばいい。『オレは聞いてない!』なんて反対理由は許さないわ」
そのことで関係部署のベテラン男性管理職がヘソを曲げ、何かと反対して進まなくなっている仕事もあるのだとか。しかしA課長は「ああいうことを許したら、会社がおかしくなっちゃうのよ」と言って反発し、調整をしてくれないのだそうです。
このことは役員の耳にも入っています。ある役員は「座った椅子が人を育てるんだ」と寛容ですが、中には「数値目標を作るのは元々反対だった」と言い出す役員もいます。
人事としては来年度以降の目標を立て、10年後には4割にする計画です。しかし今回のようなトラブルが増えると、反対者も増えそうで心配です――
社会保険労務士・野崎大輔の視点
「機会の均等」であり「結果の平等」でない点に留意
厚生労働省の通達では、男性労働者と比較して、一定の区分、職務、役職において女性労働者の割合が4割を下回っている場合、「格差が存在する」と判断されるとしています。職場に事実上生じている格差を是正して、男女の均等な機会・待遇を実質的に確保するために、事業主が女性を有利に取り扱う「ポジティブ・アクション」は法違反とはなりません。例えば社内に「女性の活用検討会」を設置するようなことは問題ありません。
とはいえ、男女雇用機会均等法が目的としているのは、その名の通り「機会の均等」であって「結果の平等」ではありません。管理職の登用は能力や適性で判断すべきであり、女性管理職の割合を目標化するのはナンセンスです。管理職には現実の組織を動かして結果を出すことが求められており、今回の部下の不満のように「これでは仕事が回らない」ということが続けば、A課長は「適性に欠けていた」と言わざるを得ないでしょう。
臨床心理士・尾崎健一の視点
男性有利の「馴れ合いの企業風土」にメス入れる効果も
野崎さんの指摘の通り、女性だからと言って適性に欠けている人を管理職に抜擢すれば、トラブルが絶えません。優秀な男性のモチベーションを下げることになれば、会社としても由々しき問題です。とはいえ、長年かけて形成された「男性有利」の価値観が組織に蔓延しているために、優秀な女性管理職が実力を発揮できないのであれば、責任を女性にばかり負わせるのは会社のためになりません。今回の相談のように、馴れ合いの企業風土にメスを入れるも女性登用の意味と言えるのではないでしょうか。
女性を積極登用することは、このような「組織の硬直化防止」だけでなく、「女性が働きやすく希望を持てる職場づくり」「女性ならではの発想の活性化」など多くのメリットがあります。一時的な心理的抵抗感や能力の問題も想定した上で、将来のメリットを優先して組織を作っていくことが必要です。そのために目標を立てて計画的に進めることには意味があると思います。