「ヒエラルキー」を意識しなくなった若者に「マナー」をどう教えるか

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   気を配れる人は、他人を傷つけない発言を意識しています。特に目上の人に「なんて失礼な奴だ」と悪い印象を与えないように、言葉選びも慎重になりがちです。

   ただ、こうした慎み深い態度に対して「本音が言い合えない、よくないこと」と批判する人もいるようです。時代が変わって「ヒエラルキー感覚」が薄まっている人が増えているのかもしれません。

セミナーの感想を聞かれ、いきなり「残念」と発言

相手から恨まれるようなことをすれば人間関係はなりたたない
相手から恨まれるようなことをすれば人間関係はなりたたない

   ヒエラルキーとは、ドイツ語で階層制や階級制のこと。上下関係のあるピラミッド型の組織構造を意味します。ヒエラルキーを意識しすぎず、上司にも臆することなく意見する人は、フラットで先入観ない態度が清々しく見えます。

   若い人を中心に、周囲の支持も受けやすいでしょう。ただ、「脱ヒエラルキー」が行き過ぎて、周囲をひやひやさせるのは如何なものでしょうか。先日、象徴的な出来事に遭遇しました。知人の会社で、ある経営者をゲストに招いて勉強会を開いたときのこと。

   受講者は全社員。ゲストは著作が何冊もある著名な経営者。幹部クラスは熱心に聞いていて、ときにはうなずき、メモを取る姿も頻繁に見えました。

   しかし若手社員は強制参加なのが明らかで、眠そうに眼をこする人も多数。誰か本当に寝始めてしまわないか、講師が気分を害さないかと見ていて心配になってきました。その心配は、残念ながら的中してしまいました。

   講演終了後、「何か質問がある人はいませんか?」と質問を促した後、誰も手を挙げなかったので司会が「では最後尾に座っている方」と突然の指名をしました。

   戸惑いながら立ち上がった若い男性社員は、緊張しながら当然のように「貴重なお話ありがとうございます」と感謝の言葉を述べる――と思ったのだが大間違い。

「著作を読んできましたが、目新しい内容が聞けなかったので残念です」

と自らの感想を率直に述べてしまいました。周囲が凍りつくような発言に、思わず司会が仕切り、勉強会を終わらせてしまいました。

「大人のルール」は誰がどう教えるか

   場の空気を読まないマナー違反の言動に、周囲は呆れ返ってしまいました。ただ、よく考えてみれば間違った発言ではありません。ゲストの講演は、著作と寸分も違わない内容。聞いていて面白いものではなかったかもしれません。

   事前に著作を読んで理解したことも立派ですし、そのうえで新しい話が聞けると期待するのも当然の話です。それでも、感想を聞かれれば「よかった」とか「勉強になった」というクッションを置くのが「大人のルール」というものです。

   臆することなく自分の意見をはっきり伝える若者が登場したのは、誰もルールを教えていないからとも言えます。では、どうしたらいいのか。先輩には何でも気をつかえという時代ではないですが、無闇に他人のプライドを踏みにじる発言はよくない。そんな大人のルールは「周囲の大人=先輩」が教えるしかありません。

   「いまの言い方は相手を傷つける」とアドバイスし、できれば「ここは相手を立てて褒めておこう」と対策も教えてあげてもらいたいものです。ただ「なんでそこまで気を遣わないとならないのですか」と質問してくる場合もあります。

   そこで切れて「いいから、やれ」と声を荒げたくなる場合もあるかもしれない。しかし、そんなときは落ち着いて「ルールだから」で押し切ることが効果的です。意外にも納得して行動が変わる可能性が高い。決まりごととして、しっかり意識させることが重要です。

   とはいえ、ヒエラルキーに過敏になるのも考えものです。気にしているのはミドル層だけ、ということもあります。年配になると懐も広くなって、馴れ馴れしく接しても疎ましく感じなくなるもの。他人にはルールをきちんと教えつつ、自分では寛容でありたいものです。(高城幸司)

高城幸司(たかぎ・こうじ)
1964年生まれ。リクルートに入社し、通信・ネット関連の営業で6年間トップセールス賞を受賞。その後、日本初の独立起業専門誌「アントレ」を創刊、編集長を務める。2005年に「マネジメント強化を支援する企業」セレブレインの代表取締役社長に就任。近著に『ダメ部下を再生させる上司の技術』(マガジンハウス)、『稼げる人、稼げない人』(PHP新書)。
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