企業が「スマホ」の扱いに頭を痛めている。個人が所有するスマートフォンを、仕事でも使っている人は少なくないが、一方でそれを「情報漏えいリスク」ととらえるところもある。
数年前、やはり情報漏えいの懸念があるとして、個人所有のノートパソコンや外付けのハードディスクドライブの持ち込みを禁止する企業があったが、スマホはユーザー数も多く、携帯電話として便利に使えるため、そう簡単に「持ち込み禁止」とはいかないようだ。
大手企業で「スマホ支給」増えるが「まだ少数派」
企業が「BYOD」に悩んでいる。BYOD(Bring Your Own Device)は、私用で使っているパソコン(PC)やスマートフォンなどから企業の情報システムにアクセスし、必要な情報を閲覧したり入力したりすること。
これまで業務で利用するPCなどの情報端末は会社が一括で調達して支給することが一般的だったが、「BYOD」ならば、企業は端末購入費や通信費の一部などのコストを削減することができ、社員もふだんから使いなれた端末で仕事ができるし、通信費の一部を会社が補助してくれるなどのメリットがある。
その半面、情報漏えいやウイルス感染などへの対策や、情報の紛失・盗難時の対応などが複雑になるケースは少なくない。ふだんも業務中に利用できる機能やサイトを制限するなどの対応も難しい。
そもそも、私用の端末のため、通信履歴や保存したデータなどを、どこまで会社把握するかといったプライバシーの問題もある。
そうした中で、リクルートマーケティングパートナーズが企業のIT担当者を対象に行ったインターネット調査(2013年4月3~10日、回答485人)によると、業務用スマートフォンの導入率は2011年で7.7%、12年が14.5%、13年が23.5%と着実に増加。2年前のほぼ3倍になった。
これを従業員規模が1000人を超す大手企業に限ると、2013年は29.6%とより積極的で、2年前の約4倍に拡大した。13年時点で将来の導入を検討(予定)する企業は全体の18.4%。「興味をもっている」企業の割合は22.9%だった。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、「大手企業には(スマホを)支給する企業もありますが、それでもまだ少ないです。たとえば、GPS機能による位置確認や、業務以外の通話禁止などの制限をかけて使っているようです」と話している。
「BYOD」全体の54.5%が「認めていない」
一方、前出のリクルートマーケティングパートナーズの調査では、私用のモバイル端末を業務で利用する「BYOD」については全体の54.5%が「認めていない」という。大手企業では、じつに71.3%が「認めていない」。
理由は、セキュリティー対策だ。実際、業務用スマートフォンを導入する企業は、セキュリティー対策として特定のアプリケーションの利用を禁止しているところが少なくない。
たとえば、「LINEやcommなど」は32.1%、「FacebookやTwitterなど」は27.4%が禁止している。それでも、なおセキュリティー面を懸念する企業の割合が高いという。
社員の反発をよそに、強硬策を採る会社もある。大手電機メーカーの社員によると、機密情報を扱う部署では入室前に私用のスマホをロッカーにしまうことが義務づけられている。来客にもスマホの提出を求め、社屋にはモバイル通信を遮断する電波を飛ばしている。特に警戒しているのは、社内の撮影とメールによる送信だ。
あるコールセンターでも、ケータイ電話のころから室内への持ち込みは厳禁だ。メールや留守番電話のチェックは昼休みや休憩時間に限られるので、プライベートのお誘いなどを逃すことも少なくないと嘆いている。
それでも中小は「BYODに頼らざるを得ない」
井上氏は、「情報が漏れたときの対応や、それによる影響を考えれば、(BYODを)積極的には奨励できないでしょう。万一、個人の悪ふざけ画像などが流出して、企業イメージが損なわれでもしたら、株価にも影響しますから、そのようなリスクは避けたい」と話す。
しかし現状は、中小企業などではBYODに頼らざるを得ないという。スマホは携帯電話でもあるのでユーザー数も多い。大手企業の社員でも、同じ端末の「2台持ち」には少なからず抵抗がある、ともいう。
業務用スマホを企業が用意するか、BYODがいいのか――。なかなか判断が難しいが、「今のところ、業務中の使用制限などの規則で縛るしかありません。企業は社員一人ひとり、使う人の意識に頼るしかない」のが実態だ。