「時間を守る」はビジネスの基本。始業時間やアポイントに遅れては信用を失い、ひいては自分の評価を下げる。
上司が始業前に出社しているのに、入社1、2年目の若手が連日「重役出勤」では本人の常識が疑われても仕方がない。だが、もし「遅刻癖」が病気のせいだったらどうだろうか。
ADHD患者と同じ脳の部分に何らかの異常
人生のあらゆる約束に遅刻してきた男――。英大衆紙「デイリーメール」電子版「メールオンライン」は2013年8月27日、57歳の男性の事例を紹介している。
会社の始業時間や友人との食事の約束だけではない。初めてのデートでも遅刻したし、葬儀に出席した際も始まった後でコソコソ斎場に入っていった。映画を見に行こうと「11時間前」から準備していたのに、映画館に到着したのは結局20分遅れだったのだ。
「だらしがない」ではすまない。なにせこの男性は、時間を守れないせいで、多くの職場をクビになってきた。部屋の時計の針を早めておくなど、なんとか解決しようと努力するがすべては無駄に終わった。
無理もない。実は単なる遅刻癖ではなく、「病気」と診断されたからだ。注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者が影響を受けるのと同じ脳の部分に、何らかの異常があるのではないかと見られている。そのため、自分のなかで時間を正確に把握できないようなのだ。しかし今のところ打開策はなく、本人も困り果てている。
インターネットの質問投稿サイトをみると、しばしば「遅刻がどうしても治らない」との悩みが投稿されている。質問者は「目が覚めるのに2度寝、目覚めた時点ですでに遅刻が確定し、あきらめてさらに遅れる」といった風だ。反省や自己嫌悪を繰り返すのだが、まったく治らない。あまりにも申し訳ないと、仕事をやめた経験まであるそうだ。
「うつ病のサイン」のひとつになる場合も
質問者への反応はさまざま。「正直私から見たら何甘えてるの?としか思えない」「死ぬ気でその甘えた根性を叩きなおして、寝坊を完全になおして」と突き放す声もある一方で、睡眠障害などの病気ではないか、と心配する人もいる。ひとり暮らしのときは遅刻がひどかったが、結婚を機に起きられるようになったとの例もあった。
英国の男性と同じように、友人の結婚式や実母の手術の当日といった大きな出来事でも時間に間に合わないという相談もあった。本人は「ADHDではないか」と考えていると深刻な悩みだ。
病気が原因であれば、適切な処置が必要なのは言うまでもない。厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」には、うつ病のサインのひとつに「遅刻・欠勤:遅刻や早退が増えた」という項目が載っている。
今まで真面目な仕事ぶりだったのに、急にこのような変化を見せだしたとしたら、非難したりむやみに「がんばって時間通りに来い」と励ましたりするのは禁物というわけだ。
一方、職場の様子は元気そのもの、同僚とのおしゃべりの声も高らかな社員が毎朝遅刻してくるのであれば、話は別だ。いつもの「癖」が出て、重要な取引先とのアポに致命的な大遅刻をやらかさないとも限らない。素知らぬ顔して始業30分遅れで出社してきた朝には、一度キツーいお灸をすえた方が本人にも、また会社のためにもなるのではないか。