欧米の研究者たちが、男性経営者と家族構成に関する研究を実施した。経営者に子どもが誕生する前と後では、従業員に支払う給与額が変わってくるという説だ。
ユニークな研究内容は、2013年7月20日付の米ニューヨークタイムズ電子版に掲載された。デンマークの男性経営者1万人を対象に、10年間にわたって従業員への給与の変化を追跡したという。
娘の面倒を見る父は「思いやりが増す」との説
その結果、経営者に子どもが生まれて父親になると、ひとり当たりの年間給与額が100ドル(約1万円)ほど目減りしたというのだ。
その理由は、優れた一家の大黒柱、あるいは会社トップになろうとの意識から、自身の会社や家族のために、従業員に対する支出を引き締めるから。研究者は「あらゆる男性経営者にとっては当然のこと」と説明しているという。
ところがこれには「ウラ」があった。研究者がデータを丹念に確認したところ、実は生まれた子どもの性別によって傾向が違ったのだという。
男の子が誕生した経営者は賃金を下げ、女の子だった場合は逆に賃金をアップさせたのだ。その理由について、研究者は次のように推測する。
――娘は父親を穏やかにさせ、人を世話しようとの気持ちを呼び起こさせる。娘の髪の毛をとかしたりダンス教室に通わせたりしているうちに、父親自身も優しさや親密さ、他人に対する思いやりが増すのではないか、と。
従業員に対しても「強い経営者」としてふるまうより、優しく接するようになるのかもしれない。記事では女性の家族が影響を与えた経営者の例として、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ会長が取り上げられている。
渡邉氏も柳井氏も「子どもは息子だけ」の偶然
それまでチャリティーを持ちかけられて断っていたゲイツ会長が、第1子となる娘の誕生の1年後、態度を急変させて慈善団体を設立。3年後には全米で第3位の慈善家に名を連ねたという。
子どもの誕生が親の性格に影響を与えるというのは、ありえないことではないが、それだけで経営者の「気前のよさ」を判断するのは危険すぎる。とはいえ、やはり日本の経営者で当てはめてしまいたくなるのが人情だ。
ゲイツ会長の友人でもあるソフトバンクの孫正義社長も、東日本大震災では復興支援として100億円を寄付した。孫社長には娘がいる。被災者に寄り添うような気持ちが生まれたのも、その存在の影響が何かしらあったのだろうか。
一方、最近「ブラック企業疑惑」を突き付けられて何かと批判の的となっているワタミ元会長の渡邉美樹氏には、息子がふたりいるが、娘はいない。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も、息子ふたりだ。偶然とはいえ興味深い。
当然、この傾向に当てはまらない人も、すぐに思いつく。米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏には娘がいたが、伝記には社員をどなり散らしたり無理難題を押し付けたりといった、とても従業員への思いやりに満ちた姿とはいえないトンデモ社長ぶりが明かされていた。あなたの会社の経営者は、どうだろうか。