改革を回避する言い訳が着実に固められている
筆者はもう一つ、この改正によりもたらされる変化を予想している。それは一言でいうなら、現状を維持するための言い訳、それもかなり強力な言い訳を準備することになるということだ。
とりあえず、派遣労働者は3年ごと、有期雇用は5年ごとに職場を移ることになるから、表向き、日本の労働市場の流動性は高くなるだろう。「もっと労働市場の流動性を高めろ」と口うるさい経済学者に対し、これは強力な武器になるはずだ。
加えて「正社員の解雇規制を緩和し、同一労働同一賃金を実現しろ」と要求してくるILOやOECDといった国際機関に対しても、鉄壁の防御を張れることになる。なぜなら、数年ごとにぐるぐる移動し続ける労働者と、10年単位で勤務する前提の正社員に同じ仕事を割り振ることはありえず、両者が同一労働する機会は激減するからだ。
「日本の潜在成長率を高めるためには、労働市場の流動性を高める規制緩和が必要だ」
→「待って下さい、すでに日本の平均勤続年数は欧米並みに低下しており、十分流動性は高まっています」
「同一労働同一賃金は世界標準であり、日本国内でも速やかに実現すべきだ」
→「待って下さい。正社員と非正規雇用はそもそも担当している業務がまったく違っており、同一労働ではないのでそういう法律は無意味です」
筆者はいま、数年後にこういうロジックで完全武装した連合関係者や左派と論戦せねばならない事態を想像し、とてもブルーな気分になっている。(城繁幸)