掘立小屋を追い払ったところで社会は変わらない
斜陽産業から成長産業への労働力の移動こそが日本の成長戦略の柱だという点で、識者の間にほぼ異論はない。おそらくは、今回の改革もそういった文脈で語られることだろう。
だが、ちょっと想像してみてほしい。職場で頑張っている派遣社員やベテラン契約社員を数年で追い出して、果たして産業構造が変わるほどの変革を生みだすのだろうか。
大学で言えば、5年ごとに非常勤講師やポスドク研究者を追い出すことで、教授たちの業績が上がるのだろうか。まったくあり得ない話だろう。
正社員を「城壁に囲まれた都市部」、非正規雇用を「その周囲に掘立小屋を建てて暮らしている人たち」とするなら、要するに今回の法改正は、掘立小屋の人たちを数年ごとに追い払うようなものだろう。
どこに住むか自由に選べて、というかそもそも城壁なんてなくて自発的に市民が成長分野に移っていく国とは根本的に異質な中世みたいな世界が、今回の改正の先には広がっているわけだ。