仕事が飽和状態、収入減少で勤労意欲が低下
制度の開始時には若干見られた早出社員も、しばらくするとほとんどいなくなりました。夜の残業制限で仕事が飽和状態になった上、残業代の削減で収入が減ったスタッフは、勤労意欲を下げてしまったのです。
その結果、スタッフから転職者が続々と現れ、危機感を募らせた会社は結局元の制度に戻してしまいました。転職を申し出た社員の一人は、総務部長にこう話したそうです。
「早出、早帰りを社会全体でやるのなら、納得性も高くて僕らもやれるのだろうけど、うちの会社だけでやろうとしても説得力がないから長続きしないですよ。結局は会社の勝手を押し付けられていると思うから、辞めるわけです」
A社はこのことだけが原因ではないものの、その後、収益環境の悪化を受けて、ピーク時の3分の1の規模への店舗縮小を余儀なくされました。
社長が自己の習慣から思いついた妙案であっても、結果的に自分の懐を痛めるような改善に社員は協力したがらないものです。特に自社独自の取組みだと、「なんでうちだけが」「なんで真っ先にやるのか」という気持ちは出やすいものでしょう。
新たな施策が経営的に正しいものであっても、社員から見ると思った以上に独善的に映る可能性もあるわけです。その点は実施前に検討すべきでしょう。(大関暁夫)