「安心して仕事を任せられる方」と答えてくれる 米国で根強い人気の「職歴詐称サービス」

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「あなたの職業をでっち上げよう(Fake Your Job)」

   こんな社名を堂々と掲げる会社が米国にある。実はこれ、勤務先や職務経歴、年収などを詐称するのを手伝うサービスである。米国の企業では採用選考において、求職者の過去の勤務先の上司に電話をかけて、求職者の仕事ぶりや能力を確認する(リファレンスを取る)のが一般的だ。

   その結果が採否に大きく影響するため、前勤務先で問題を起こしていたり上司との折り合いが悪かったりした場合、あるいはしばらく失業していた場合には、有利なリファレンスを取れる先がなく求職者は困ってしまう。

1件6000円で口裏を合わせてくれる

「ええ、彼は確かにここで働いていましたよ」
「ええ、彼は確かにここで働いていましたよ」

   そんなときにこのサービスを利用すると、1件6000円くらいの手数料で専門の担当者が「前勤務先」の受付や上司になりすまし、求職先からの照会にうまく口裏を合わせてくれるのだ。たとえば、こんな具合に。

「はい、○○社の××です。ええ、△△さんは確かにここで働いていました。経理の仕事は迅速かつ正確で、安心して仕事を任せられる方でしたよ」

   そんなことをして詐欺罪で捕まらないのか?と心配をする人を安心させようと、上記会社のウェブサイトには次のようなFAQがある。

「Q:御社のしていることは合法なのですか?
A:手短に言えば、合法です。この手の行為を非倫理的だと思う人もいるでしょうが、地方、州、連邦政府をだますのでないかぎりは合法です」

   また、次のような言い回しでサービスを正当化しているところもある。

「当社は公共の利益を重んじるため、犯罪行為に加担するようなサービスは提供しません。また、以下のような場合にはリファレンスは提供しません。
融資を受けるため/教育機関に就職するため/医療サービスに就職するため/公的機関に就職するため 等々」

   「公共の利益を重んじる」には苦笑してしまうが、リーマンショック以降、職探しに苦しむ人たちの根強いニーズがあるらしい。いざというときに自分たちに手が回らないよう、「いかなる場合も当社は一切責任を負いません」という免責事項も忘れない。あなたのリスクでご利用くださいということだ。

   さらに驚くのは、同じような不正サービス会社が日本にも乱立しているという実態だ。以前のコラムでも取り上げた「アリバイ屋」である。

「必要悪」かもしれないが厳正な処罰も必要

   日本では、採用にあたってリファレンスを取ることは一般的ではない。しかし風俗関係などで働いていたり無職だったりして、履歴書の職業欄にその事実を書きたくない人がおり、彼らに対してアリバイ屋が設立登記をした会社(もちろん実態はない)の名前で源泉徴収票等を偽造するサービスが存在する。

   さらに悪質なのは、偽造した収入証明によりクレジットカードの作成や住宅ローンの借入まで手伝うという行為だ。これは明らかに犯罪行為であり、2011年9月にはニセの源泉徴収票により住宅ローン約5,600万円がだまし取られた事件で、アリバイ屋が初めて逮捕されている。

   一方で、このような不正サービスの利用者の中には、いわゆる社会的弱者の人たちがいる。働く意欲はありながら定職がなかなか見つからなかったり、離婚してギリギリの収入で子供を育てなければならなかったりする中で、アパートの賃貸契約も子供の保育園入園もままならず、こういう手段をとらざるを得ないのである。そういう境遇の人たちにとっては、アリバイ屋は必要悪なのだろう。

   企業は、採用面接や賃貸借契約において偏見をもたずに相手の状況を把握し、できる限りの対応をするべきだ。また国は、生きるために止むにやまれず不正行為に手を染める人たちの声なき声に耳を傾ける必要がある。

   そのうえでアリバイ屋のような不正サービスの提供者や利用者を放置せず、厳正な処罰を下すべきだろう。「社会的弱者を救うのだから」「生きるためには仕方がない」「社会が悪い」と言い訳をいくら並べても、不正行為は許されることではないし、やめさせるべきである。一度身分を偽ってしまったら、後ろめたい思いをし続けなければならないし、いずれ発覚すれば契約は解除され、さらに厳しい立場に追いやられてしまうのである。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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