「必要悪」かもしれないが厳正な処罰も必要
日本では、採用にあたってリファレンスを取ることは一般的ではない。しかし風俗関係などで働いていたり無職だったりして、履歴書の職業欄にその事実を書きたくない人がおり、彼らに対してアリバイ屋が設立登記をした会社(もちろん実態はない)の名前で源泉徴収票等を偽造するサービスが存在する。
さらに悪質なのは、偽造した収入証明によりクレジットカードの作成や住宅ローンの借入まで手伝うという行為だ。これは明らかに犯罪行為であり、2011年9月にはニセの源泉徴収票により住宅ローン約5,600万円がだまし取られた事件で、アリバイ屋が初めて逮捕されている。
一方で、このような不正サービスの利用者の中には、いわゆる社会的弱者の人たちがいる。働く意欲はありながら定職がなかなか見つからなかったり、離婚してギリギリの収入で子供を育てなければならなかったりする中で、アパートの賃貸契約も子供の保育園入園もままならず、こういう手段をとらざるを得ないのである。そういう境遇の人たちにとっては、アリバイ屋は必要悪なのだろう。
企業は、採用面接や賃貸借契約において偏見をもたずに相手の状況を把握し、できる限りの対応をするべきだ。また国は、生きるために止むにやまれず不正行為に手を染める人たちの声なき声に耳を傾ける必要がある。
そのうえでアリバイ屋のような不正サービスの提供者や利用者を放置せず、厳正な処罰を下すべきだろう。「社会的弱者を救うのだから」「生きるためには仕方がない」「社会が悪い」と言い訳をいくら並べても、不正行為は許されることではないし、やめさせるべきである。一度身分を偽ってしまったら、後ろめたい思いをし続けなければならないし、いずれ発覚すれば契約は解除され、さらに厳しい立場に追いやられてしまうのである。(甘粕潔)