部下に「体臭がキツい」と注意をしたら「人権侵害!」とキレられた

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   汗を多くかく夏は、体臭が気になる季節である。特に清潔好きな日本人は、他人の体臭が気になる国民のようだ。グローバル化の時代に「多少の体臭は気にするな」という論調が出てくるかもしれないが、すぐに対応することは難しい気もする。

   ある会社では、社員の体臭がキツイと客やスタッフから連絡を受けた上司が、部下に指摘をしたところ、部下が烈火のごとく怒り出したという。誰にでも少なからずある体臭をクサイというなんて、イジメだし人権侵害だというのだ。

常連からもスタッフからも苦情が来ているが…

――飲食店の店長をやっています。先月入店してきた30代のAさんは、接客はとてもよいのですが少し問題があります。それは体臭がかなり強いのです。

   常連のお客さまからは「ちょっと臭うよね、あの店員」「悪いけど気持ち悪くなったわ」とクレームを言われました。スタッフのBさんからも「かなりキツイです。『同じシフトはやめてください』と言うバイトもいます」と聞かされています。

   おそらく腋臭(わきが)といわれる症状だと思うので、呼び出して「スタッフとか皆から、君の体臭がキツいという話が出ているんだけど、何とかならないかな」とただしました。するとAさんは、烈火のごとく怒りはじめました。

「それってBさんから聞いたんですよね。この間、言い争いをしたから、そんなことを言いふらしてるんでしょう。体臭なんて誰でもあるじゃないですか。それを『嫌なヤツの体臭はクサイ』というなんてイジメだし、人権侵害じゃないですか?」

   彼は興奮して「いったいどうすればいいのですか!」と大声を出しますが、私としてもどうにも思いつきません。言い方が悪かったかなと思ったときには、もう手遅れでした。

   ただ、彼は自分から辞めないというし、かといってこのまま放置すれば、お客さんが減ったりスタッフが抜けたりするおそれもあります。こういうときは、どうすればいいんでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
「本人の力ではどうしようもないこと」には気を使うべき

   「人権侵害」という表現が当てはまるかどうかは分かりませんが、本人の力でどうしようもないことで尊厳を傷つけるとハラスメントに当たる可能性があります。臭いは目に見えず主観的な要素もあるので、店長が「みんながそう言っている」と伝えると「周囲が根拠なく追い詰めている」と誤解されがちです。ここは店長自身が悪者になり「自分の基準でそう感じる」と伝えたうえで、解決策について一緒に考えるのが理想だと思います。

   腋臭はアポクリン腺という臭いを出す汗腺によるもので、対策としては清潔にすることが大事なようです。夏はこまめに汗を拭き、着替えをするようにしましょう。制汗スプレーを使ったり、脇毛を剃って雑菌の繁殖を防いだりすることで効果があがる場合もあるようです。心配なのは、Aさんがにおいを気にしすぎる「自己臭症」という精神不調に陥ること。うつ病に発展する場合もあるので注意が必要です。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「私生活がだらしなく不潔」な人にはハッキリ指摘していい

   体臭の問題は一般のオフィスでも起こりうることですが、原因によってアプローチを変える必要があると思います。「私生活がだらしなく不潔なのでクサイ」という人には、上司から生活を正すようハッキリ指摘してよいと思います。ただし「清潔にしているのに体質で臭いがする」のであれば非難めいたことを言わず、必要に応じて休みを取らせて形成外科や皮膚科など専門医を受診してもらいましょう。手術も開発されていて、健康保険が適用になるケースもあるようです。

   店長として気をつけなければならないのは、他のスタッフにAさんを追い詰めるようなことをさせないことです。もしイジメなどが起こってトラブルになれば、別の問題に発展します。周囲の不満を理由に追い詰めて辞めさせようとすることも、Aさんから不当解雇と言われ争いが起きる可能性があります。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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