社会的に支援を必要とする人に働きかけを行う福祉事務所の職員。「ケースワーカー」とも呼ばれるが、その仕事はストレスに満ちている。
ウソをついたり権利ばかりを主張したりする生活保護受給者に、かなり手を焼くこともあるようだ。苦しい生活実態を目の当たりにして「何とか助けたい」と思いながらも、支給条件を満たさず却下しなければならないときもある。
そんなストレスを発散するためか、ギャンブルなどに走って公金に手を着けてしまうケースが数多く発生している。個人の責任だけでなく、そろそろ職員の就業環境向上やストレス対策に本格的に力を入れる必要があるのではないか。
「全国的に問題になっていたため」市の調査で発覚
千葉県市原市に勤務していた男性ケースワーカーA(40)が、2008年8月から10年10月にわたって、自ら支給を担当する生活保護費を不正に処理して着服を繰り返していたことが発覚。市はAを7月22日付で懲戒免職とし、近く刑事告訴する予定だ。
Aは、死亡や転居、就労開始などにより受給資格を失った担当先に目をつけ、死亡の事実を隠したり、支給廃止手続きを意図的に遅らせたりして、合計で約700万円を市から不正に支出させ着服した。
受給資格を喪失した時点で、生活保護費の支給方法を「口座振込」から「窓口での現金支給」へと勝手に変更し、自分で現金を手渡ししたように装っていたという。「パチンコや生活費などに使った」そうだ。
奇しくも同じ千葉県内での出来事だが、ちょうど1年前にもこの連載で同じような事件を紹介している。その後も残念なことに同様の横領事件があとを絶たない。
・千葉県木更津市の男性ケースワーカー(30)が生活保護費約160万円を着服。「業務にストレスを感じてやった。パチンコや飲食に使った」
・兵庫県川西市の男性ケースワーカー(56)が58万円を着服。「パチンコやマッサージに使った。肩こりがひどかった」
少し古いデータだが、厚生労働省によると「生活保護に係る福祉事務所職員による不祥事案」は、2006年度20件、07年度12件、08年度16件、09年度11件とコンスタントに起きている。社会福祉制度の破綻リスクが高まる中、このような犯罪は見過ごせない。
市原市のリリースによると「全国的にケースワーカーによる生活保護費の取り扱いが問題となっていたため」、今年1月から生活保護廃止世帯のケースファイルを点検した結果、今回の事件が発覚したという。もっと早く着手すべきであったが、このような取組みは高く評価できる。他の自治体も危機意識を強くもち、同様の調査を行うべきだ。
カウンセリングの導入で健全な就業環境の維持を
もちろん、大多数のケースワーカーは、弱者保護という使命感をもって懸命に働いているはずだ。しかし、人間だれでもいつ何がきっかけで横領の動機を抱え込むかわからない。費用対効果の問題はあるが、現金事故対策で先進的な取組みをしている金融機関も参考にして、以下のような対策を講じてはどうか。
・ケースワーカーには絶対に現金を触らせない(受給資格審査と支給事務の分離を徹底) ・支給方法は必ず受給者名義の預金口座への入金とする(最近は金融機関による口座開設時の本人確認が非常に厳しくなっており、なりすまし等の不正リスクは減っている)
・担当者以外の職員(できれば監査部門の職員)が定期的に全受給者を抜き打ち調査し(訪問や電話)、死亡、就労などの事実がないかどうかを点検する
・窓口に防犯カメラを設置して、窓口での職員の仕事ぶりを撮影し「見られている」という緊張感をもたせて抑止力を高める(銀行などでは防犯カメラで来店者だけでなく職員の不審な動きをモニタリングするのが一般的になってきている)
・不正を行った支給者、受給者の氏名を公表するとともに、可能な限り厳罰をもって臨み、抑止効果を高める
そういった管理強化の一方で、「毎日お疲れさま」「よくやってくれているね」という上司のねぎらいや、ケースワーカーに対するカウンセリング制度の導入がストレスを緩和し、健全な就業環境の維持に役立つかもしれない。部下をチェックする厳しい目と、見守り励ますやさしい目。管理職にはそれをうまく使い分ける力量が求められる。(甘粕潔)