周南市連続殺人事件の背景について出身者はこう見る

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   山口県周南市の5人殺害放火事件について、別に詳細を知っているとかそういうことはないのだが、うちの実家が極めて近所(車で20分くらい)なので、いくつかフォローしておこう。

地方山間部で進む「選択と集中」

   まず、ニュースで繰り返し流されている超ド田舎風景について。筆者の実家もあんな感じだと想像した人もいるだろうが、全然そんなことはない。

   うちの実家のある町はこの10年くらいで、人口は確か500人くらいは増えているはずで、筆者の実家の近所なんて十代の頃は何にもない山ばかりだったが、今では真新しい家が立ち並ぶ住宅地になってしまった。

   うちの山ひとつ挟んだ裏にある田んぼの真ん中の十字路は、昔はカエルとトラクターくらいしか横断してなかったが、昨年帰省したら、あろうことかピカピカの4車線道路になっていて大きな信号機も輝いていた。

   実は近年、地方(特に山間部)では、生活のインフラが維持できなくなることで、住民の自発的な集中現象が起きている。学校や商店のなくなった山奥の集落から、それよりマシな町に人が集まるということだ。

   結果、周囲には農協すらない集落が点在しつつも、人が集まってくる町はプチ中核町としてそこそこ発展することになる(それでも4車線道路はやりすぎだと思うが)。

   ちなみに、周辺集落に残るのは「残ることによる不便さ×これから先の人生期間」と移動するコストを天秤にかけて前者を選んだ人たちなわけで、当然ながら80歳前後の老人ばかりである。

大自然の中の小さな人間関係

   「地価安いのになんでみんなで張り付くように暮らしてるの?」とか「毎日顔合わせるほど仲いいのになぜ事件なんて発生するの? 八つ墓村みたいな祟りでもあるの?」なんて声もあるが、好き嫌い関係なしに、田舎ほど寄りそって暮らさざるを得ない事情がある。

   あの手の田舎だと、だいたい、信金とか農協とか学校といったインフラが撤退し、最後には個人商店がぽつんと残る。一つのインフラがなくなるたびに、その周囲でそれに依存していた民家も消えていくから、残った民家は最後に残った商店の近くに固まることになる。今回の集落はそういう商店すらなくなった最終段階だったと思われる。

   さて、そういう状況になると、住民同士でいろいろと助けあわねばならない。もう車の運転も出来ない老人もいるだろうし、少し重い荷物だって運べないだろうし、電球の交換も一人では難しいはず。そういう作業をまだ体の動く人が代わってあげるわけだ。

   というわけで、土地は嫌というほど余っているのだが、こうした集落では都会では想像もつかない濃密な人間関係が存在している。

   ところで、行方不明の男性は63歳。こうした山間部では“超若手”であり、力仕事は何でも任せとけ的な期待のホープだ。そういうポジションを都市部からUターンしてきた本人が望んでなかったとしても、濃密な人間関係の中にいやでも引きずり出されたものと思われる。ひょっとすると、そういう関係で何らかのトラブルがあったのかもしれない。

   無縁社会のリスクが孤独死だとすれば、“有縁社会”のリスクはこうした人間関係のトラブルと言えるだろう。

田舎の事件特有の怖さ

   筆者が小学生のころに、近所で包丁持って暴れた人がいて、街からパトカーもやってきたのだが、本人が山に逃げ込んでしばらく逃亡していたことがあった。ああいう所に住んでいる人は当然山歩きのプロだが、警官はそういうわけでもないので、いっぺん逃げ込まれるとなかなか捕まえられない。

   この状況は他の住民からするとたまったもんではなくて、街灯もない、家には老人しかいない中、周囲360度の山のどこにそいつがいるかわからないという恐ろしい状況が続くわけだ(しかも張り込み中の覆面パトカーは、見知らぬ車に見知らぬオジサンが乗ったまま空き地にポツンと停まっているので小学生が見ても一目で「あ、おまわりさんだ」とバレる)。

   というわけで、うちの実家までは山岳地帯を徒歩で半日くらいかかるからまあ大丈夫だろうけど、筆者としては、一日も早い解決を願うばかりだ。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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