安倍内閣は6月14日に閣議決定した「世界最先端IT国家創造宣言」で、ワークライフバランス実現を目的にテレワーク普及に取り組むとした。「子育て期の女性や育児に参加する男性、介護を行っている労働者」が週1回以上テレワークできるよう支援し、2016年までに本格的な普及を図るという。
2020年には「テレワーク導入企業を2012年度比で3倍、週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上」に押し上げると野心的な目標も掲げた。
「気が休まらない」と退職した人もいたが
オフィス以外での勤務を可能とする「テレワーク」は、場所や時間に縛られない働き方がホワイトカラーを中心にメリットになるとされる。育児中の人や「痛勤ラッシュ」に悩む人など、会社がテレワークを許してくれたら助かるのに、と願っている人もいそうだ。
2012年度の国交省調査によると、在宅型テレワーカーは仕事に対する満足度が高まるという結果が出ている。「満足・やや満足」は42.4%で、「不満・やや不満」の27.8%を大幅に上回っている。
非テレワーカーの「不満・やや不満」は「満足・やや満足」を上回る39.9%なので、改善効果はかなりあると言っていい。テレワークの実施日は業務時間が2.1時間減り、自分の時間が0.5時間増えるなど、いいことづくめだ。
ブログ「ITエンジニアとして生きる」でも、2週間のリモート勤務の結果、仕事への集中やプライベートでの充実感を感じるうえに、遠隔地のハンデや孤独感は予想以上になかったと記している。
だが、テレワークが本当にメリットばかりなのか首をかしげる向きもある。7月16日付の産経新聞朝刊は、在宅型テレワーカー増加で「実質的なサービス残業が増えた」例を紹介している。
パソコンやスマートフォンがあれば、自宅に限らず移動中や喫茶店でもネット接続が可能になる。文字通り「いつでもどこでも」仕事ができるので、上司のチャットに反応しないと「仕事をしていない」とみなされ、気が休まらないと退職した人までいたそうだ。
意外と重要になる「文章力」
「テレワーク先進国」の米国では、2008年の時点で導入率が42%に達している。J-CAST会社ウォッチの取材に応じた在米の日本人女性経営者も、自社でテレワークを採用しているという。
通勤の手間が省け、子育て中の女性でも仕事に支障がない。ただし複数メンバーが時間と場所をバラバラに働くので、チーム全体の動きが把握できるようなスケジュール管理が重要だという。
勤務時間と終業後の公私の切り分けも意識している。顔を合わせないテレワークでは、ネット上での密なコミュニケーションが生命線。就業中は「メールを頻繁にチェックし、丁寧に連絡し合う」ことを求める。ただし業務が終われば、「社員は業務メールを見る必要はない」とキッパリ。仕事から離れた社員が「完全オフ」となれるよう徹底していると明かす。
意外と重要になるのが「文章力」。メールでの意思疎通を的確に行う能力につながる。相手の事情に配慮しないメールを送りつけるメンバーは頭痛の種だ。プロジェクト全体への目配りも大事なので、「経験の浅い新人にはテレワークは難しい」と女性経営者は考える。
米国ではスターバックスが、遠方在住の社員に週1日程度、在宅勤務を認めている一方で、米ヤフーのように在宅勤務を禁止したケースもある。テレワークに対する会社側の考え方やスタンスは、米国でも一律ではない。日本でも政府の掛け声に乗るだけでなく、各職場での取り組み方を個別に考える必要があるだろう。