男性の美容意識が大きく変わってきた。メンズエステや男性向け化粧品が増え、美容に強いこだわりを持つ「綺麗男(きれお)」と呼ばれる男性も登場している。しかし、このような男性の見た目意識も、過熱しすぎると思わぬところに悪影響を及ぼす。
城西クリニック (東京 新宿)の小林一広院長によると、見た目を過剰に気にしすぎるあまり、「身体醜形障害 」という精神疾患 に陥る男性もいるという。代表的な例は、髪型や顔の形、肌の様子などが気になり「鏡の前から何十分も離れられない」といったものだ。
自意識の強さや劣等感が「身体醜形障害」を生む
「身体醜形障害を生む要因のほとんどは、持って生まれた性格(病前性格)と、何かの些細なきっかけ。見た目を意識すること自体は誰にでもあることですが、それがいつの間にか日常生活に支障をきたしてしまうのがこの症状です」
小林院長によると、身体醜形障害の根底にあるのは「自分の中でこうあるべきだ」という自意識や、「周りと比べて劣っている」という劣等感。前者の場合は「もっと目が大きくなければダメだ」などといった考えを生み、強迫性障害や社交不安障害につながることもある。
後者は周りへの劣等意識が根源なので、多くの人の視線を浴びたり向かい合って話したりという行為が苦手になる。最悪の場合、知人以外ともコミュニケーションが取れなくなる統合失調症の初期段階という場合もあるそうだ。
身体醜形障害を発症する年齢は幅広く10代の患者も多いが、30代男性によく見られるのは、薄毛やメタボなど年齢による変化から過剰に見た目を気にし出すケース。初めて自覚する老いを受け止められなくなってしまうことが多いようだ。
このような背景で薄毛などの容姿を気にする人に対しては、育毛剤の治療だけでは問題は解決しない。「男性型脱毛症(AGA)治療のパイオニア」と「精神科医」という2つの顔も持つ小林院長は、心身両面の頭髪治療に加え内面のケアも行っているという。
自身の衰えに向き合うことが「円熟期の男性」に必要
身体醜形障害が起きるきっかけを、ひとまとめに語るのは難しい。ふと鏡を覗いた際にわずかな見た目の変化が気になり、徐々に不安になるパターンや、「最近、髪の毛薄くなったんじゃない?」という友人の何気ない一言がなぜか頭に残り、日に日に増大する場合などさまざまだ。
また、自分では見た目を過剰に気にしている意識はないが、周囲の人がその様子を心配して発覚することもある。たとえばプレゼンで以前より露骨に緊張するようになったり、大事な商談の直前に身だしなみばかりを気にして時間に遅れてしまったり。これらは潜在的な見た目への強い意識が、本人の気付かぬうちに「支障」へとつながっている。
「薄毛を理由にクリニックを訪れる人の中にも、“気にしすぎているだけ”の人は少なくありません。見た目への不安が原因でビジネスや日常生活にトラブルが頻発するようであれば、抗不安薬 などを投与します。そこまで重度でない場合でも精神的なケアを行い、考え方やものの見方を変化させていくようなアプローチを行っています」(小林院長)
持って生まれた性格が発症要因であるため、身体醜形障害を防ぐ手立てはそう簡単ではない。とはいえ見た目への過剰な意識が精神疾患につながる可能性を覚えておくだけでも損はない。大切なのは外見に表れる自身の衰えを予測し、いかに客観的に向き合うか。 それが円熟期へと向かう男性の見た目意識におけるカギといえそうだ。