銀行を舞台にしたTVドラマ「半沢直樹」(TBS系)が人気です。今回は元銀行員の身として、このドラマを見ながら思いあたった「銀行に信頼される社長のあり方」を考えてみます。
ドラマでは、堺雅人さん扮する銀行融資課長の半沢直樹が、支店長の命により5億円の融資をした途端に倒産に会い、その責任を一人負わされかけた危機からいかに脱するかを描いています。
決算書上の数字は過去の結果に過ぎない
元銀行員の立場で見て特に面白いやりとりだなと思ったのは、難攻不落の新規先から支店長が融資の内諾をもらったとの話を受けて、半沢と担当者が同社を訪問する場面です。
社長「お前のところの銀行がどうしても借りてくれって言うから5億借りてやるんだぞ」
半沢「ありがとうございます。持ち帰り検討させていただきます」
社長「検討だと。何だその言いぐさは。それなら借りてやらなくてもいいんだぞ」
担当「なにとぞ、当行からのお借入れよろしくお願いいたします」
半沢「…検討させていただきます」
支店表彰が欲しいがため、支店長は5億円の融資を内諾しています。それを確実にするために社長の下に行かされた半沢課長ですが、社長と面談して「これはダメだ」と直感したわけです。
担当がダメ出しするパターンは実際には少ないのですが、担当や課長が新規先からの融資申し込みを受け、財務内容に問題がなく応諾方向で話が進んだのにもかかわらず、支店長が先方を訪問してダメを出すのはよくあることです。
そのような場合の、ダメ出しをする決め手は何か。オーナー会社の場合、何よりも重要な判断材料になるのが「社長の人となり」です。決算書上の数字は過去の結果に過ぎません。将来にわたる信用力を判断する一番重要な生きた情報は、社長自身なのです。
若手銀行員時代にこんなことがありました。融資を断られた社長から苦情をいただき、当時の支店長にその旨を伝えました。すると、支店長はこう言ったのです。
「あの会社の社長室を見たか。会社の規模や業績に不釣り合いな豪華な応接セット、壁の絵画に陳列棚の工芸品…。あの社長は相当な見栄っ張りだね。人に見せるための社長室をつくっている感じがするだろう。私の判断は、人物的に要注意だ」
決算書よりも「社長自身」をきれいにすること
銀行員の融資判断は、最終的には「自行のおカネをこの社長に貸せるか否か」ということ。支店長は「とてもあの社長にはおカネを貸す気になれなかった」と言うのです。
もちろん逆のパターンもあります。決算書上は難しい融資案件であっても、支店長が社長の人物部分を高く評価して、本部を説得し融資を応諾するというケースも多々あるのです。
銀行の支店長は、社長のあらゆる点を見ています。金使いは荒くないか、プライベートが忙しく仕事をおろそかにしていないか、人間関係が危うくないか…等々。
昔は、愛人、ギャンブル、外車は要注意と言われたものです。銀行員は道徳家ではありませんから、それらが悪いと言っているのではなく、分相応を外していないかということが大切なのです。以前サイバーエージェントの藤田晋社長が、「馬とフェラーリには手を出すな」と経営訓として言ったというのは、これと同じ類であると思います。
「ちょっと近くを通りがかったので」などと言いながら取引先を訪問したとしても、それは言いわけであり。たいていの場合、社長の日常を見るための計算された抜き打ち訪問でもあります。
「社長のゴルフはどのぐらいのペースでやられています?」「お酒はどのあたりで飲まれているんですか?」。雑談を投げかけているように見えて、支店長の質問の一つひとつには、社長のプライベートが問題ないかを知る情報収集だったりするのです。
もちろん普段の行動以上に大切なことは、社長自身の人間性であることは言うまでもありません。約束は破らないか、ささいなことでもウソを言わないか、話を大きくするようなことはないか、社員や家族を大切にしているか等々は、基本中の基本でもあります。
銀行から信頼される企業であるためには、決算書内容をきれいにすることよりも、社長自身をきれいにすることであると言っていいでしょう。最初のドラマに話を戻せば、宇梶剛士扮する社長の派手な出で立ちとヤクザな対応では、半沢ならずとも即「アウト」の結論は間違いのないところです。(大関暁夫)