ティファニーの窃盗犯は「身内」 ルールの裏をかいた勤続20年のベテラン

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監査対象の「金額の下限」は現場に知らせるべからず

   日々大量の取引が発生する大企業では、チェックや監査を効率的に行うために金額の下限を設けて対象取引を絞り込むことが多い。だが、それをチェックされる側に知られてしまうと、盲点をついた不正が行われるリスクが高まる。

   たとえば経費のチェックでも「5万円以上は本部の事前承認が必要」というルールを作ると、現場では領収書を分割するなどして、すべてを5万円未満に収めようという不正な動機が生じやすくなる。

   そのため内部監査においては、監査対象を絞込む「下限金額」は現場に知らせてはならず、状況に応じて金額を変更すべきである。チェックを抜打ちで行ったり、時には全件チェックを実施したりするなど、相手が予測できない形で監査を行う工夫も必要だ。

   LinkedInに載っているAの経歴書には、部門責任者として「内部監査やセキュリティ部門と協力して、商品の動きを管理するための新しい標準作業手順書を作成する」という職務が記載されている。長らく勤勉に働いてきたAは、内部監査部門からも信頼を得ていたのであろう。何とも皮肉な話だ。

   内部監査の一番の目的は「業務の有効性と効率性を高めること」であり、確かに現場との協力・連携は大切だ。一方で不正リスク管理の観点からは、現場との距離を常に一定に保ち、懐疑的な目を向ける必要もある。「信頼しても放任はしない」。このさじ加減が難しい。(甘粕潔)

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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