政治の世界では冷え込んだままの日中関係。それでも中国が魅力的な市場なのに変わりはなく、現地法人を置いて駐在員を派遣する日本企業は少なくない。
生活習慣が異なる中国に長期滞在となれば、ただでさえストレスがかかる。そのうえ更にうっとうしく感じられるのが、味方であるはずの「日本本社」の存在だ。
過重なノルマ。社員引きとめ策にも「必要あるの?」
隔月刊「メンタルヘルスマネジメント」(技術情報協会)2012年10月号に、関西福祉大学の勝田吉彰教授が「海外赴任者のメンタルヘルス対策」について寄稿している。
勝田教授が中国駐在員に「いま一番のストレス源は」と聞き取り調査したところ、多く返ってきたのは「日本の本社」という答えだったという。
「現地事情では到底達成不可能なノルマを押しつけ、あるいは、艱難辛苦のあげく立派な業績をあげ本社に報告しても評価されるどころか、『もっと』『たったそれだけ?』といった反応が返るということもよく聞く」
自分をバックアップしてくれるはずの日本の本社が、ストレスの原因になっているというのは本当か。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部は、中国駐在を経験したふたりに取材した。
広告会社の中国現地法人社長として出向した経験を持つ男性は、本社が全く理解を示さない現地事情を3点挙げた。
1点目は、現地社員の労務管理の問題だ。中国人は社員同士で給与額を教え合い、低いと不満を募らせる。好条件の会社があればすぐに転職するので離職率が高く、引き留め策の研修に「こんなコストをかける必要があるのか」と本社から指摘されたという。
2点目は、契約に基づく支払期日が守られないこと。先方は「払わない言い訳」を先に考える「徹底ぶり」で未収が起こり、ひどいと1年も入金されない。そんな事情を本社は理解してくれない。
3点目が、取引先との関係維持の方法だ。何かにつけて付け届けするのが常態化しており、その経費は「使途不明金」と誤解される恐れがある。あいまいな点の多い中国ビジネスの手法を「本社はいくら説明しても分かってくれなかった」と嘆く。
「過激サービスの店」の要求に「トイレで泣いた」
メーカーの北京統括会社の部長として4年間駐在した男性も、現地の製造・販売経験のない本社社員から過大な数字を突きつけられる日常に「胃に穴があくようだった」と話す。
毎週のように本社からやってくる出張者のアテンドも頭痛の種だった。
「ほとんどが『駐在経験なし、中国語もダメ』なのであれこれ面倒をみなければならない。大半は視察程度で、役員の中には『せっかく来たのだから政府高官に会わせろ』と無理を言ってくるケースもあった」
中国人の失笑を買うドンチャン騒ぎもすべて現地法人の負担。中間管理職レベルの出張者から、過激なサービスをする店に連れて行けと命じられたときには「店の臭いトイレの中で泣きました」。もはや迷惑以外の何ものでもない。
中国国内の地域差など基礎的な知識もないまま「評論家たち」に頓珍漢な指示を出されないためには、とにかく業績を上げるしかない。赤字にでもなれば本社が「立て直し」と称して次々と余計なちょっかいを出してくる。
前出の元広告会社の中国法人社長は、ある社員の中国駐在が長引いた末、本社勤務の同期が先に昇進した例を話した。「早く日本に帰りたい」と本社のご機嫌取りに走る社員も出てくる。「そんな上司に当たった部下は、余計うっ憤がたまるでしょう」。
業績悪化から苦し紛れに「中国進出」を唱えるのではなく、トップ自ら現地の事情をよくよく理解しなければ、送り込まれる駐在員のストレスは溜まる一方だ。