「やるべきこと」ばかりでなく「やりたいこと」を忘れるな
Aさんが当店で働くことを決めたのは、私が言っていた「カレーで街を元気にして、全国からお客様に来てもらえる店をめざす」という一言だったそうです。しかし目達インセンティブ制度は、短期的な店の売上数値しか掲げていない。
横で聞いていた他のスタッフも、「目達インセンティブは違う気がします」と続きました。私はガツンとハンマーでアタマを叩かれたような衝撃を受けました。
クライアントには普段から「ビジョンの重要性」を力説している自分が、小さなカレーショップの運営とはいえ組織であることを忘れて、ビジョンを置き去りにしていたのです。組織を前に進めるときには、「やれること」「やるべきこと」ばかりでなく、ビジョンであるところの「やりたいこと」をしっかり共有しなければいけません。
お店が「やれること」任せで低迷状態にあって、私は「やるべきこと」ばかりを強調していました。本当に必要だったのは、組織としての「やりたいこと」は何なのかを、社長である私が今一度皆と共有することだったのです。
「それはすまなかった。じゃあ、こうしよう。全国からお客さまに来てもらうためには、まず地元で一番有名な飲食店にならないと。そうなるために今、何をしたらよいか皆で考えよう!」
目達インセンティブは中止。Aさんを中心にお店の再活性化策を検討し、店舗内外の飾りつけの変更やメニューシートのデザイン刷新、新メニューの検討に着手しました。2月の下旬からの売上は回復し、3月以降は無事成長軌道に戻りました。
果たしてこの方向転換が功を奏したものか否かは分かりませんが、スタッフに活気が戻ったことは確かです。客商売では「店の活気」は大変重要なのです。どんな組織でもビジョンは大切なのだ――。そう気づかせてくれたスタッフに感謝しています。(大関暁夫)