横領やキックバック、インサイダー取引などの不正を犯す者は、組織内での自分の処遇に強い不満感を抱いていることが少なくない。そのような感情は「会社には貸しがある。だから自分にはこれくらいもらう権利がある」という正当化を招きやすい。
数年前に摘発されたネット証券会社社員A(懲戒解雇)によるインサイダー取引にも、そのような不満感が見え隠れする。第三者委員会調査報告書の中には、Aが不正に手を染めるきっかけが垣間見られる記述があった。
不正のひきがねを引く「やり場のない不満」
Aは、夜勤が嫌で前の勤務先を辞め、ネット証券会社に転職した。しかし、いくつかの部署を移ったあと、新規事業の立ち上げでまた夜勤をすることになってしまった。
社内で期待された新規業務であり、たとえ夜勤でもやりがいがあれば苦にならなかっただろう。しかし、残念ながら期待に反して取引は拡大せず、Aの仕事もニュースのチェックなど単純作業の連続になってしまった。
さらに、Aの落胆に追討ちをかけるように「査定のたびに給料が下げられて」、やり場のない不満を抱えるようになっていった。
そんな中、社内の情報管理の甘さから、同僚から「自社の株をメガバンクが公開買付する」というインサイダー情報を得る。そして、以前から株取引のアドバイスをしていた友人名義の口座を借りればバレないだろうと安易に考え、友人共々インサイダー取引に手を染めてしまった。
「発覚すると分かっていたら、当然やらなかった」。調査委員にAはそう語ったそうだ。
実は、事件を起こす前にAはメガバンクに出向しており、出向中ははるかに多くのインサイダー情報に接していた。「なぜそのときはそれを悪用しようと思わなかったのか」との質問に対し、Aは次のように答えている。
「(出向していた時は)仕事が充実していたからです」