仕事上の便宜を図るため、法人支払いのクレジットカードを役員や従業員に渡している会社もあるだろう。特にカード支払いが一般的な米国では、精算手続きの簡素化のために社員にカードを渡す会社が多いが、これが不正に使われることがある。
数年前、米国の公認不正検査士協会(ACFE)のカンファレンスで、横領で服役したアメリカ人女性の講演を聴いた。彼女もクレジットカードを不正使用したひとりだが、元々真面目だった彼女が道を誤ったきっかけは、カード利用先での手続きミスだった。
「給料以上の仕事している。これくらいは」と正当化
彼女は大学で経営学を専攻し、人事コンサルティング会社に就職。こぢんまりとした家族的な雰囲気の職場で才能を発揮し、営業から経理事務までさまざまな仕事を任されるようになっていった。
「周りから信頼され、一人で何でもできる」。不正リスクの警報が鳴り響く中、あるちょっとしたハプニングをきっかけに、彼女はダークサイドに足を踏み入れることになる。
それは、彼女が仕事で利用していた旅行代理店のミスだった。家族旅行の手配をしてもらったときに、代理店がその代金を誤って彼女の会社のアメックスカードに請求してしまったのだ。
給与支払いの事務も任されていた彼女は、「翌月の給料から差し引けばいい」と軽く考えた。しかし、翌月は出費がかさんだので「精算はもう1か月延ばそう」と安易に先送りしてしまった。
そうこうしているうちに、社内の誰も気づいていないのをいいことに、彼女はこう考えるようになる。
「家族旅行中も、仕事のeメールのやり取りをしたり留守電に答えたり、電話会議に参加したりしたわよね。だから仕事で出張したことにしていいんじゃないかしら」
そして、家族旅行の費用を、人知れず会社の旅費勘定に紛れ込ませた。「会社にこれだけ貢献しているし、給料以上の仕事をしている。これくらいは…」。そう自分に言い聞かせたのかもしれない。