権利を発明者から切り離し「メリハリのきいた処遇」で対応
以上2点をまとめるなら、現状の日本企業では「相当の対価」の基準が曖昧で、しかもそれに報いる手段もないということだ。個人の利益を保護し、インセンティブを維持するためには、むしろ早急な改革が必要だろう。
では、どうすれば、企業と従業員双方の納得できる対価を決め、それを支給することが可能だろうか。それには“市場”を活用するしかないというのが筆者の意見だ。
特許は法人に帰属するけれども、代わりに採用時の契約段階でメリハリのきいた処遇を提供し、それに納得した人間が契約を結んで入社する。たとえば、一流の研究者をスカウトする場合。
「我が社で研究して頂ければ、年俸2000万円+出来高ボーナスあり、ストックオプション制度も利用可能です」
といった条件を出し、それに納得した人だけが入社するという具合だ。納得できない人は他の会社の門を叩けばいい。
それが恐らく、双方の納得する対価を決め、かつ、実際に個人に支払う唯一の方法だろう。そのために権利を発明者から切り離すのは、筆者はとても重要な改革の第一歩だと考えている。結果としてそれは、企業にはより合理的な報酬制度の構築を促し、個人にはより高い成果へのインセンティブをもたらすはずだ。(城繁幸)