「うちの会社はブラックじゃないって!」 噂を立てられ困惑する居酒屋社長

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   県内で6軒の居酒屋を経営する40代の若手社長が、飲み会の席でグチを話してきました。地元の飲食店やお客の間で、社長の会社が「ブラック企業」だという噂が出回っているのだそうです。

「店を回していくために必要なことしかしてないのに、ブラック呼ばわりされてはかなわない。どう否定したらいいものか、本当に参ってますよ」

   噂が出始めたのは、昨年の秋口ごろ。噂がきっかけかどうかは定かではありませんが、年末にも社員が2人ほど退職して他店に移ったのだとか。

同業からの「引き抜き目的の嫌がらせ」と思うけど

ライバル会社が悪い噂を立てて業務を妨害しようとする場合も
ライバル会社が悪い噂を立てて業務を妨害しようとする場合も

   今の若い人たちは「ブラック」という言葉にかなり敏感です。この噂が流れ出したとたん、職場内でも「もしかして、ウチってブラック?」と不安が広がったと感じたそうです。

「年末商戦を前にスタッフの頭数が足りず、同業からの引き抜き目的でウチの元社員が加担しているように思うんだよな。業界ではよくあることだけど」

   飲食業は深夜に及ぶ仕事なので、どこも似たりよったりな職場環境のはず。しかし他人から「お前のところはブラックだろ」と言われれば、恥ずかしくなって辞めてしまうのではないか。

   確かに若い人たちの「ブラック」の定義は曖昧で、必ずしも法令違反の就業ルールを行っている職場ばかりではありません。単に指導が厳しいとか体育会系のノリだとか、そういう側面で決めつけているケースも結構ありそうです。

   私は社長にそう伝え、心当たりがないか尋ねてみると、職場のこんな慣習を明かしてくれました。

(1)朝礼は大声で挨拶をさせている(生鮮品を扱う職場の基本との考え)
(2)会社の経営理念を唱和させている(顧客重視と企業の一体感の醸成)
(3)現場スタッフの指導は「スパルタ式で厳しくいけ」と店長に指示している(不正防止の観点から。体罰はするなと言っている)
(4)全員への目標売上げに対する必達意識のすり込みと、業績を反映した報酬制度
(5)アルバイトから契約社員、正社員への昇格審査は「業績+勤怠+思考」で判断

若い店長には「ほめ方」の考え方も伝える必要がある

   社長があげた要素は、どれも違法行為ではないのですが、やり方の問題はあるのではないかと思いました。そこで懸念材料を説明してみました。

   まず「大声でのあいさつ」や「経営理念の唱和」は、理由も分からず強制的に従わされているイメージに陥りやすいことがあります。しかし、ここまでは職場の雰囲気作りに関わることでもあるので、各店それぞれでしょう。

   ただ、不正防止のためにもっぱら「スパルタ式」で指導するのは考えものです。指導は叱り方だけではなく、ほめ方に関しても会社の考え方を管理者に伝える必要があります。特に若い店長に管理者を任せるケースには、この点は要注意です。

   「目標に対する必達意識」を高めること自体は、営利企業として当然です。しかし、社内のコミュニケーションは「店を回った時や会議で店長と話をするくらい」では弱いと思いました。店舗に行ってスタッフ全員を集めて話をするとか、一人ひとりにできるだけ声を掛けるとか、そういった機会を作ることで社長への親近感も生まれ、社長や会社の考え方も浸透することになるのです。

   大声で唱和をさせられ、現場がスパルタ指導。社長の顔は分かるけど得体が知れない。「そんな職場なら、ブラックなイメージになるのも仕方がないかもしれませんね」と話をすると、社長は何かに気づいたようにこう言いました。

   「噂では、僕のことを北朝鮮の故金正日タイプだと言われていたらしいけど、こんな優しい人間をつかまえてなぜって思っていました。そうか、身近に感じられない存在っていうことが、『怖いイコール、ブラック』になるんですね。勉強になりました」(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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