「優しい目」と「厳しい目」で見守る相談相手を持つ
そのときの心境について、Aはこう語っている。
「最初に着服したとき、これをやったら自分一人の問題でなくなることを自覚していた」
わかっていたのに、なぜ手を出したのか。ここでも心の弱さが露呈した。Aは「そのうちに大きな報酬が入れば穴埋めできる」と安易に考え、「横領の正当化」に至ったのだ。
Aは事務所の職員に「収入が少ないのがばれてしまうのが恥ずかしかった」とも供述している。恐らく愛人に対しても見栄を張っていたのだろう。弁護士としてのおかしなプライドや世間体が邪魔をした面もあったのかもしれない。
「動機」と「機会」「正当化」――。こうしてAの「不正のトライアングル」が完成した。
Aの「心の弱さ」は、人間だれでも多かれ少なかれもっている。それを「悪さ」につなげないためには、自律する心とともに、困ったときに素直に相談でき、優しい目と厳しい目をもって見守ってくれる相手を一人でも多く持つことが大切だ。
日弁連は様々な再発防止策を検討しているようだが、カネに困った弁護士に対する相談窓口や救済融資制度(優しい目)とともに、定年退職した内部監査経験者を嘱託で雇って弁護士事務所の資金管理状態を抜き打ちでチェックする監査制度(厳しい目)を設けてはどうだろうか。(甘粕潔)