「成年後見人制度」を悪用した弁護士や司法書士による預り金等の横領事件が、過去3年間で約30件にのぼっているそうだ。高い倫理観を備えるべき弁護士による不祥事の増加に、日弁連も強い危機感を抱いている。
この背景には、弁護士人口の増加による競争激化があるのかもしれない。しかし、同じような厳しい境遇にありながらも、ほとんどの弁護士は使命感と倫理観を維持して依頼人のために尽力している。
だから、単に「金に困ったから」というだけでは説明がつかない。横領する人間の心理はもっと入り組んでおり、いろいろな状況が重なり合って、間違った方向に一歩二歩と進んでしまうのである。
愛人と生活、妻に送金で「残高が足りない」
知的障がいのある男性の成年後見人を務めていた弁護士A(52歳)が、男性の口座から現金1200万円を着服した。この事件の裁判の様子を、6月8日付のMSN産経ニュースが細かく伝えている。その中にあるAの供述が、横領犯の心理を探るのに参考になる。
不正に手を染めたきっかけは女性問題だった。妻に不倫がばれて別居。愛人と生活しつつ、妻子に毎月数十万円の生活費を送金する必要が生じて、100万円以上の月収をもってしても出費が賄えなくなっていったらしい。
カネに困ったら、出費を切り詰めるのが真っ当な解決策だ。Aも愛人と別れ、妻に頭を下げてよりを戻すなり、安アパートで一人暮らしをするなりすべきだった。しかし、A自身がいみじくも語っているとおり、自分に甘く「心の弱い人間だった」ことが、「横領の動機」を抑え切れなかった原因の一つだろう。
さらに、弁護士に対する依頼人の信頼が「横領の機会」を与え、資金管理がずさんなAはそれを悪用してしまった。本来であれば「個人の財産」と「弁護士報酬」「依頼人からの預り金」は明確に分けて管理すべきだが、Aは1つの預金口座でどんぶり勘定にしており、入出金はすべて1人で処理し、帳簿もきちんと付けていなかった。
依頼人は弁護士を信頼して、いちいち預け金残高のチェックなどは行わない。個人事務所であれば、企業のような監査機能もない。そうなると、A弁護士事務所の内部統制はAの自己規律のみに依存するあやうい状態となる。
そしてある日、依頼人の一人から預り金の返還を求められたAは、口座の残高が足りないことに気づいた。この期に及んで道を誤らないための最後の砦は、まさに誠実性や倫理観といわれるものだ。しかしAは、成年後見人として預かっていた男性の預金口座から資金を不正に流用してしまう。