先日機械商社オーナーのA社長を訪ねると、いきなりこんなグチを聞かされました。前の日に営業と総務の部長が社長のところにやってきて、「社員から『うちの給料はいつ上がるんだ』という声が上がり始めたのですが」と相談があったのだそうです。
「要は給料上げろってことだろ? バカ言ってんじゃない。景気が良かろうが悪かろうが、利益が増えれば一人あたりの付加価値が高まって、還元できるものが増える訳だ。先行きは明るくなりつつあるけど、昇給なんて状況にはまだまだ程遠いよ」
収益状況を知らなければ「会社の事情」も分からない
私は一旦その話を聞き流したのですが、部長が2人で直談判に来たというのが気になったので、面識のある総務部長にことの経緯を尋ねてみました。
部長によると、業界内は公共投資の増加を当て込んでか、同じような規模の中堅企業でも給与や賞与を上げる動きが出始めた、との噂話が流れたとのこと。
「社員の中には『給与が上がらないなら転職活動に動く』と宣言する者まで出てきたもので、これはちょっとマズイかなと思って社長にお話ししたわけです」
社長が考える給与アップの判断基準は、あくまで収益の向上。一方社員は、世の中の動き、特に業界内のトレンドを基準としています。それはそうでしょう。社員には転職する権利があるのですから。
社員の動きは性急に思われますが、他社の動きだけで物事を判断するのもやむを得ない面があります。というのもこの会社では、売上以外の経営指標は社内にも非公開という方針を貫き、目標はすべて売上一本で管理されているのです。
オーナー系の未上場にはありがちですが、社員は自社の収益を知るすべもないのですから、会社の事情など考えないのも無理からぬところです。そこで部長から聞いた話を確認すると、社長は色をなして怒り出しました。
「なんだい、大関さんまで右へならえで、社員の給与を上げてやれとでも言うのかい? 他が給与を上げたからなんて、およそコンサンルタントとは思えんな。うちはうち、よそはよそだ。上げないものは上げないよ!」