会社には、会計・経理のさまざまな手続きがある。それぞれのしくみには、お金を集計しつつ、不正を簡単に行わせない方策も組み込まれているものである。
それでも不正がなくならないのは、不正を行う人間がしくみの抜け穴を巧みにかいくぐっているからだが、周囲の監視の目が弱まっているケースも非常に多い。そして発覚したときには「まさか、あの人が」ということになるのである。
先月東証一部上場企業が公表した、同社の営業部門長Aによる不正の調査報告書にも、そのものズバリの記述があった。
「(Aは)社内・社外の評判もよく、装置営業部門のキーマンであり、営業本部の仲間意識も強く、不正取引発覚後も『まさか、あの人が。』という評価で満ちており、周囲からの批判は無かった」
同じ顧客を長く担当させるのも「諸刃の剣」
まさかの事態を招いた原因のひとつに、組織環境がある。B社では、顧客との信頼関係を高めて営業力を強化するために、一人の担当者に同じ顧客を長く担当させてきた。
「客先への引渡しなどの営業活動や、さらには、売上後の売掛金回収状況の確認や仕入先への支払い指示など、担当営業部員がほぼ一人で営業事務処理を管理・実行するというスタイルが踏襲されてきた」
そのような中、Aも入社以来、中日本営業本部に勤務し、課長職になってからは装置営業部門一筋(20年)で常に決裁権限を握っていたという。さらに装置営業の専門性の高さや担当地域の特性なども手伝って、良くも悪くも仲間意識や家族的雰囲気が強まりやすい閉鎖的な風土がつくられた。
結果としてAは、部下からは面倒見のいい「家長」として、取引先からは頼りになるパートナーとして、全幅の信頼を得るに至った。そして、資金繰りに困った仕入先の支援をきっかけに、先方の社長と結託して仕入れ代金を水増しし、キックバックをせしめるという不正に手を染めるようになる。
Aは、私利私欲を満たし続けるために、部下にも不正の片棒を担がせていたようだ。着服金で部下の労をねぎらうこともあったのかもしれない。部下は、内心おかしいと思いつつも「家長」に異を唱えることはできず、挙句の果てには複数の部下が同じような不正に手を染めるようになってしまった。
不正を恐れるあまり担当者をコロコロ交代させるのは本末転倒だ。それでは人材は育たず、取引先の信頼も得られない。しかし、同じ部門にどっぷりつかってしまうと、気の緩み、馴れ合い、癒着などが生じ、悪知恵もはたらきやすくなる。B社はそのリスクへの対応を怠ってしまったといえるだろう。