「手描き」と「デジタル」のあいだのズレ――アニメをつくる大事なもの

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デジタルアニメと「手描き風」はそんなに遠くない

   「だから3Dアニメは手描きの良さがないんですね?」とよく言われることもありますが、ここがアニメの面白いところで、実は最近の3Dアニメは意識して「ズレ」を入れているのです。

   アニメの3Dは主に撮影部が担当していますが、ゲームや映画の3D制作と同じで、3Dソフトを用いてオペレーターが最適値を算出しています。3Dには2つのプロセスがあり、ひとつはキャラクターを造形するモデリング。もうひとつは、キャラクターの動きをつくるモーションといいます。

   モデリングはフィギュアやぬいぐるみをつくることを想像してもらえるといいと思いますが、モーションは文字通りシーンに合わせた動きをつけることです。共通していることは、どちらも基本的には適切な数値を入力すれば完成します。

   しかし、アナログな人間の動きには「ズレ」が多いものです。そういったズレ情報を3Dオペレーターが手で入力します。キーボードを使って地道にひとつずつ数値を調整するので「手づけ」といいます。

   このアナログな方法が「手描き風味」を醸し出すわけですが、「手づけ」の情報を大事にしている3D監督は意外に多く、その理由は、そこにクリエイターの個性が出るからです。

   最近は、面白いモブシーンの動かしかたをするスタッフや、気持ちいいアクションが得意なスタッフが増えてきました。デジタルは意外と個性的なのです。

   アニメもデジタルに移行してから20年近くたちましたが、先日、ある3D監督から聞いた話で面白かったのは、「今のアニメ3Dは、ちょうど作画の黎明期に若手スタッフが好き勝手に暴れて実験していた時代と似ている」とのこと。アニメをみるときには、デジタルアニメの「ズレ」にも注目してみてみると面白いかもしれませんね。(数井浩子)

数井浩子(かずい・ひろこ)
アニメーター、演出家。『忍たま乱太郎』『ポケットモンスター』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ200作品以上のアニメの作画・演出・脚本などに携わる。『ふしぎ星の☆ふたご姫』ではキャラクターデザインを担当した。仕事のかたわら、東京大学大学院教育学研究科博士後期課程に在籍。専門は認知心理学
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