運送会社の社長が、社員であるトラック運転手の「裏切り行為」を嘆いた。突如残業代の未払いを請求され、労働調停に発展。事情を知った荷主からはペナルティーを課せられたという。
「平気で会社を裏切るドライバーや、臭いものにフタをする荷主の姿勢に、人間不信に陥った」
経営に余裕のない会社社長の恨み節ととれるが、トラック運転手は長時間労働で楽な勤務環境とは言えない。なぜ残業代を払っていなかったのかと、ネット上では社長に対する厳しい批判が続出した。
ネットは「加害者が被害者面」と手厳しい
社長の「告白」が掲載されたのは、専門誌「物流ウィークリー」電子版2013年6月3日付の記事だ。
好印象を抱いていた運転手が入社半年後、有給休暇の取得を申し出た。だが社長は交代要員の確保が難しいため事情を説明し、有給を買い取ることで説得したという。
これを機に運転手の態度が悪化。さらに残業代の未払いを会社側に要求してきた。「払えない」と言うと運転手は、弁護士とともに荷主のところへ赴いたという。
入社時から日報をコピーしており、未払い分500万円を会社側に請求。労働調停の末、250万円の支払いで解決した。
だが今度は荷主から「台数削減というおとがめ」を突き付けられ、飲まざるを得ない状況に追い込まれたそうだ。社長は、運転手の行為を「裏切り」と考え、「長時間の拘束を強いた」と荷主に対しても責任の一端があると憤る。
この記事に対し、ネット掲示板では「ドライバーは当然の要求をしたまでだ」と社長批判の大合唱だ。記事中にある社長の「(運転手がすべての日報をコピーしていたのは)確信犯だった」との記述にも「加害者が被害者面」と手厳しい。一方で少数だが、「悲しいが中小はこんなとこばっか」と諦めにも似た意見もあった。
記事は匿名のため、具体的にどの会社の事例かは不明だ。ただ実際に運送会社と運転手との間で、待遇を巡るトラブルは少なくないようだ。
義務を果たさぬ社長は説得力に欠ける
2013年5月には、神奈川県の運転手が勤務先である都内運送会社に対して、残業代およそ700万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。報道によると、勤務時間は1日11時間を超えて時には20時間に到達、サービス残業も強いられたそうだ。
トラック運転手の時間外労働については、厚生労働省が「労働時間の延長の限度等に関する基準」を出している。そこで規定されている「拘束時間」は、時間外労働時間や休日労働時間を含む「労働時間」と「休憩時間」を合わせて、原則として1か月最大293時間となっている。
ただし年6か月までは、年間拘束時間が3516時間を超えない範囲で、月の拘束時間を320時間まで延長できる。また1日の拘束時間は原則13時間で、延長する場合も16時間を限度とする。また「労働時間」には運転時間だけでなく、荷待ちの時間も含まれる。
時間外労働や休日労働を行う場合は、労使間で「36協定」を結ぶのは他業種と同様で、当然ながらその分の「残業代」を運転手に支払わねばならない。
「物流ウィークリー」の記事を読む限り、運転手がどのような労働環境に置かれていたのか詳しくは分からない。ただ、支払われるべき残業代が未払いで、請求されたら「払えない」と突き放した社長の行動は法的に問題があるだろう。「平気で会社を裏切るドライバー」という不平にも、義務を果たしていないのでは説得力に欠ける。