悪質なブラック企業に対して、被害を受けた労働者が訴え出るのはまず労働基準監督署だが、事態がこじれると裁判所への提訴が選択肢となる。
ただし裁判は、最終的な法的措置としてはありうるのだが、弁護士費用を合わせると数十万円、そして1年以上の裁判期間がかかる可能性が高いことを考えると、なかなか手が出しにくい。
そこで覚えておきたいのが「労働審判」だ。2006年にできた比較的新しい制度なのだが、「ブラック企業被害者救済の切り札になるか?」と専門家の間でも期待がもたれているのである。
「3回以内で結審」「約2か月半で結果が出る」ので長期化しない
労働審判で扱われる案件は、裁判と同じく「権利関係がはっきりした事柄」である。テーマは労使間のトラブル全般で、「不当解雇」「不当配置転換」「賃金・残業代未払い」「非正規雇用からの雇い止め」など。「労働問題に限った簡易裁判」のようなイメージだ。
一般に労使間でトラブルがあると、双方が話し合いをして和解を模索する。うまくまとまればそれでいいが、解決に至らない場合は労働組合に相談するか、都道府県の労働局に「あっせん」を依頼する。
「あっせん」とは労働法の専門家であるあっせん委員が、労使双方から個別に話を聞いてあっせん案を作成し、それを双方が受け入れれば和解が成立するという公的制度だ。
しかし法的拘束力が弱く、双方の合意が必要なので、ブラック企業側が「あっせんの場に出てこない」とか「あっせん案を拒否する」事態も起こってしまう。そうするとあっせん自体が打ち切られてしまい、解決しないケースも多いのだ。
労働審判は「あっせん」と「裁判」の中間的な位置づけだ。労働審判官(裁判官)1名、労働問題の専門家である労働審判員2名(労働者側1名、使用者側1名)が双方の言い分を聴いて審判を行い、基本的に調停、和解による解決を目指す。
労働者にとってありがたいのは、手続きが長期化しないことだ。「原則として3回以内で結審」「約2か月半で結果が出る」という特徴は、重い負担に耐えられない人にはメリットになる。最高裁の平成23年集計によると、1件平均73.1日で終結している。
「強制力」を持つのも、ブラック企業への対抗策として有効だ。出頭命令に従わない場合には5万円以下の罰金が科せられるうえ、労働審判官の心証を悪くして審判に負ける確率が高まる。