「最初から絵が描けたんですか?」
「どうしたら絵がうまくなりますか」
絵が描けたらなあと思う人は多いらしく、ときどきこのような質問を受けます。美術系の学校には通ったことがないので、私も仕事で出会う先輩に「どうやったらうまくなりますか?」と機会があるたびにいつも質問していました。
自分自身、いまだに修行中なので「これが正解です」とアドバイスするのはおこがましいのですが、うまくなる方法はいくつかあります。
ダヴィンチも自分の作品を客観視しようとしていた
上達する秘訣で一番多かった答えは、「たくさん描くこと」。「とにかく枚数を描いて、描いたスケッチブックの厚みが身長を越えると格段にうまくなる」という先輩の言葉を信じて、1年ほど毎日手のデッサンを続けていたことがありました。
毎日デッサンを続ける。これは野球でいえば素振り、将棋でいえば詰め将棋と同じことです。将棋七冠王の羽生善治名人は、毎日詰め将棋を150問解いているそうです。
絵とは関係ないのですが、一時期、ボイストレーニングに通っていたときがありました。英話の発音が上手くなるために腹式呼吸が有効だと聞いたからなのですが、このときにも「腹式呼吸は3年続けないと身につかないのよ」といわれました。
その道を極めるためには、絶えず基礎訓練をすること、それも3年くらい。よくいわれることです。しかし、普通の人に「どうやったら上達しますか」と聞かれて、「3年間頑張りましょう」とはとても言えません。
ところが、どんな道にも近道はあるもので、絵がうまく描けるようになる「ある簡単な方法」がありました。それは、左右が逆になった絵をみることです。絵を描き終わったら、紙をくるっとひっくり返して裏から絵をみるのです。
レオナルド・ダヴィンチも、左右が逆になった絵を観察することをすすめています。「平らな鏡を使って自分の作品を映してみると、鏡に映った絵は左右が逆になるので、自分がそれまで見ていた絵と違って、誰か他の画家によって描かれているように見える」そうです。
逆さになった自分の絵は客観的に観察できるというわけです。試しに手元のメモ用紙になにか落書きをして裏から透かしてみてください。別の絵に見えるものです。
モノの見方を変えると「面白いアイデア」が出てくる
デザイナーやアニメーターはいつもトレス台という透写台を使って何枚かのラフを重ねて、下にある絵を透かして統合してデザインを仕上げます。しかし、最後にデザイナーはよく自分の絵を裏かえします。裏から見てもバランスに違和感がないかを確認するのです。
「仕上げの人は裏から絵の具を塗るから、変な絵を描くとすぐわかっちゃうから恥ずかしいんだよね」
知り合いのキャラクターデザイナーは、セル時代によく言っていました。念には念を入れて、グリッド線を引いたガイド板を使って、正確に上下左右のバランスもチェックするデザイナーもいました。
このように、右と左、表と裏。両方から観察するのは絵を整えるためでもあるのですが、実は「おまけ」がついてきます。裏からみると、新しい「デザイン」が発見できるのです。
「絵を描くということは、ものの見方を覚えることだ」。ベティ・エドワーズの『脳の右側で描け』という本にも書かれていますが、鏡に映したり、描いた絵を裏から見るとき、「なにか別の新しいもの」という認識が生まれるわけです。
これは絵だけではなくアイデア全般にいえることだと思います。新しい企画を考えるとき、裏から見てみると意外と「面白いアイデア」が出てくるかも知れませんね。(数井浩子)