銀行員時代に付き合いがあったA社、B社の2人の社長。私が退職後、お目にかかる機会はなかったのですが、たまたま最近両社を知る地元の方から話を聞いて、会社が置かれた状況の違いに驚かされました。
両社ともにリーマンショックで業界内に激震が走り、経営危機に陥ったとか。その結果、A社は大手企業に買収され倒産は避けられたものの、社長を含め社員のほとんどは職を失うことになったそうです。
まじめ社長が思い悩む姿に、有力社員が続々流出
一方のB社は経営危機をきっかけに、他の業界へのOEM方式での機械製造に転身。売り上げもあれよあれよ言う間にリーマン前を大きく凌ぐようになり、数年後の上場も視野に入っていると聞きます。
A社とB社の社長のいちばんの違いは、ひとことでいうと社長の「社交力」でした。
金型製造会社A社の社長は、まじめな技術者タイプ。細かい点まで気配りがあり、新製品の開発部門から製造工場まで、あらゆる部門のチェックに余念がありません。取引先への同行訪問も積極的に行なっていました。
私が会社を訪ねると、いつも事細かに会社の現状や取引先との関係を話して聞かせてくれ、銀行にとっては本当にありがたいタイプでした。
ただ、スタッフとの雑談では「まじめすぎて息が詰まることもある」という声も聞かれました。銀行の融資先が集まる経営懇話会でも、旅行や会合にはほとんど欠席。人が大勢集まるような場所は「あまり得意じゃない」のがよく分かりました。
A社が受注激減に見舞われたとき、まじめで仕事熱心な社長は「どうしたらいいものか」と深く思い悩んでしまったようです。その様子を見た側近や有力社員は「万策尽きた」という感を強くしたのか、次々を会社を辞めてしまい、会社の技術のみが買われていく悲しい末路をたどってしまいました。
「社長がなんとかする」という期待が信頼につながる
食品加工機械製造会社のB社長も技術者出身ではあるのですが、とにかく社交的なタイプ。どこで誰と会っているのか把握できないほど、毎日のように外出をしては直帰という行動パターンです。
B社長に会うには、かなり早めのアポ取りが必須です。面談できても、会社の事業のことはあまり話題にあがりませんでした。たいていは、異業種の集まりで面白い話を聞いたとか、有名な経営者や政治家に会ったとか、芸能人とゴルフをしたとか。
経営懇話会でも、会長を務める多忙な上場企業社長をサポートし、副会長として業種を問わず交流し、常に輪の中心で会員企業の経営者から親しまれ頼りにされる存在でした。
A社の社長とは対照的に、B社の“社長外交”は経営危機をきっかけに積極さを増し、東奔西走、さまざまなツテをたどって窮地脱出に向けたあの手この手を打ちました。それが功を奏して「災い転じて福となす」状況になったようです。
A社との一番の違いは、社長の社交力が、社員の信頼感を呼んだこと。「社長が絶対なんとかしてくれるだろう」という期待のもと、ほとんどの社員が欠けることなく会社を支えてくれたことが大きな勝因になったようです。遊んでばかりいるように見えた社長が、経営危機を救うこともあるという話です。(大関暁夫)